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推しに夢中  作者: 虚月 悠奈


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46/47

46.推しや白昼夢

「……なちゃん!……ちゃん、……華ちゃん!!!」


恵の声だ、と華が認識した途端、意識が急浮上した。

視界がパッと開ける。

そこは戦場だった。


見知った人物と、お世話になっている人が刃を交えていた。

キーンっ、キーンっと金属がぶつかり合う音が鳴り響く中、華は目覚めたのだ。

いつ意識を失ったのか記憶が無い。

悪夢のようなものを見たような気がしていた。


華は意識が飛んでいたここ数分の出来事を、覚えていなかった。

体力が無くて恵に先を行ってもらい、少し休憩してから再度走り出した記憶はある。

気がつけば、エントランス手前の影から顔だけをのぞかせていた。

別の場所で身を潜めていた恵が、様子のおかしい華に近づき、声をかけたのだった。


2人の目の前で繰り広げられている戦闘。

どうもノアの様子がおかしい。

いつもと同じ、愛用の剣を振るっているようだが、いつもよりもかなり重たそうに見える。

まるで大きな鉄球を引きずるかのように、剣先を地面に付けてズルズルと引きずりながら移動する。

立ち向かってくる勇者に対して、かなり勢いをつけて踏ん張りながら剣を振り上げ応戦していた。


「ゔっ、っくそ。なんで......。っはあああああぁぁぁあああ!」


短く呻き声を上げ、額に汗を浮かべるノアは異常な雰囲気を醸し出していた。

そして華が目の前の戦いに集中していた時、背後から突然キィイイインという金属音が響いてくる。

驚いた華はワンテンポ遅れて、後ろを勢いよく振り返った。

恵はすぐ後ろから近づいてくる人影にいち早く気づき、自分たちに向けられた殺意を剣の平地で受け止める。


「あー!ごめん、やっぱ気づかれちゃった♪躊躇しちゃったけど、もっと思いっきり殺ればよかった♪」


ミシッと、拳が剣にめり込む音。

そしてやけに楽しそうな、聞き覚えのある声がきこえてくる。

そう思った次の瞬間には、既に遠くから放たれた矢が華の顔面ど真ん中に向かって飛んできていた。

間髪入れずに友達を狙われて、まるでゾーンに入ったかのように恵の瞳孔が勢いよく開く。

ふっと短く息を吐いて、素人とは思えないスピードで手にしていた剣を上に滑らせる。

その剣は見事に矢尻にヒットして、矢の軌道が華の顔から天井へと変わる。

矢は剣に押されて、重力に逆らい上昇して行ったが、やがて自重で真下へと起動を変えた。

恵は剣を横になぎ払い、その矢を真っ二つにした。


アニメみたいな出来事が目の前で起こったのだが、一瞬の出来事すぎて、華の理解が追いつかない。

口を開けてぽかんとしている華を、目の前の女性が笑う。


「あはは、お友達びっくりしちゃってんじゃん♪」


ニコニコと笑いながらも、殺意をこちらに向け続けている女性に対し、恵は黙ったまま剣の切っ先を向けた。


「こっちの女の子はそこそこ戦えそうだけど......」


女性は、恵を値踏みせるような視線を向けた。

そしてその目線を華の方へとスライドさせる。


「うーん、君は何しにここへ?増援じゃなさそう。ってことはなにか事情があってここにいる感じ?まぁいいか♪」


疑わしきは罰せよと言いながら、再びこちらへ突っ込んでくる女性。

そしてそれに応じる恵。

無闇矢鱈に戦いたくない華は、この場を切り抜ける言葉を探した。


「......あの!もしかして、葵さんと蓮さんですか?」


金属音にかき消されないように、華が精一杯叫ぶと、女性の拳がピタリととまる。


「なぜ名前を?」


という女性の言葉と共に、再び飛んでくる鋭い矢。

女性がその矢をたたき落とす。

何度も命の危機にさらわれた華は、唇を震わせながら回答した。


「杏さんから聞きました。」

「杏から?」

「はい、杏さんはついさっきまで自分たちと一緒にいたんです。」

()()()というより、()()()()()()()ということかな?」


その言葉で、再び緊張が走る。

華は首を横に振りながら、口を開く。


「無理矢理なんてそんなことしません。だいたい私たちは魔族でもなんでもなくて......」


どぉおおおおん


華の言葉を遮るようにして、突如鳴り響く地響き。

華は音がした方向へと視線を向けた。

ところがノアの姿も勇者の姿も、どちらも見えなくなってしまっていた。

どこからか湧き出た煙があたり全体に蔓延し、嫌な匂いが漂う。

華の頭には嫌なイメージが湧いてしまった。


その見たくない未来を阻止するために、動かなければならないと思うのに、華はその場に立ち尽くすことしか出来なかった。

対して恵は即座に行動した。

先程まで華の隣にいた恵だったが、気がつくと目の前の煙の中に躊躇なく飛び込み、あっという間に華の視界から消えていった。


勇者の仲間はあえて恵を見逃す。

そして華の方に目を向けた。

お前は行かなくていいのかと問い詰めるような目だった。

華は逆に質問する。


「貴方たちは、勇者の元に向かわなくてもいいんですか?彼が心配では?」

「心配?しないよ♪だって今の翔が負けるとこなんて想像つかないしねっ♪」


それに、と目の前の女性は続ける。


「蓮は遠距離攻撃の方が得意だからね♪むしろあれぐらい離れてる方が調子がいいみたい♪……で、君はどうする?」


華に向かって、再び拳が振り下ろされた。


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