45.推しじゃなくても辛いよ、そんなの
1階のエントランス部分にたどり着いた華が見たものは、完璧な勝利だった。
もちろん勝ったのは勇者パーティだ。
今まで自身が操作していたキャラが、目の前にたっている。
今現在のプレーヤーは、このゲームを結構やりこんでいるらしい。
勇者たちの装備はかなりレアで、レベルもかなり上げている。
華の目には何故か、勇者パーティのステータスが見えていた。
そばですすり泣く声が聞こえる。
華がそちらの方へ顔を向けると、視界に男女の姿が写った。
大柄な男性が体を真っ赤に染め上げて、床に倒れている。
その男性の体を女性が支えている。
自身が汚れるのも厭わずに。
そんな恵とノアの姿を見た華の視界が揺らぐ。
勇者たちはやけにあっさりした初戦に、拍子抜けした。
なんなら1つ前の門番との戦いの方が、手応えがあったぐらいだった。
戦いの始まりこそは、いつもとどこか毛色の違う戦闘に戸惑ったもののすぐに慣れて、そこからは早かった。
パーティ最大のヒーラーを失っている彼らは、かなりハンデがある方だったのだが、問題なかった。
戦っていたのもほぼ勇者ただ1人のみで、他のふたりは後ろで暇そうに待機していただけ。
勇者たちが最初の敵を倒した後、女性が一人この場にかけつけた。
そして遅れてもう1人。
増援だろうか?と勇者は剣をさやに収めず握りしめた。
ところが、その現れた増援のひとりが、倒れた敵を見て、涙を流し始めた。
途端に勇者たちの立場が無くなり、気まずくなる。
いたたまれなくなった勇者は、取得した経験値やアイテムを確認するために画面を開いた。
それは華たちから見えなかったが、確かに勇者パーティのみんなは見ることができる画面だった。
敵とはいえ、死体のそばで平然と立ち尽くしている(ように華たちには見えた。)勇者に、華はゾッとした。
しかし自身がプレーしている時も、たしかに同じような行動を取っているのだ。
それでも今、華たちは当事者である。
目の前で知り合いが命を閉ざす瞬間を目の当たりにし、華はまっすぐ立っていられなくなった。
近いところからか、遠いところからか。
麻痺した華の耳では不確かだが、恵の声が聞こえる。
「……ひっ、……ひぐ、っどうしよう。まにあわな……間に合わなかった……。助けられないかな?……もう、むりなの……?」
ここからの華の記憶は曖昧だ。
誰か別の人が、自身の体を操作しているような感覚に陥った。
冷静なもうひとりの自分が、ノアの瞼を少し無理やり開き、状態を確認する。
……瞳孔が開いている。
手首とこめかみに指を2本ずつ当て、鼓動を確かめる。
……動きなし。
鼻の先に耳を近づけて、音を確認。その後、手を当てて空気が流れているか確認した。
……呼吸なし。
「死んでる。もう無理だよ。」
とても冷たい声だった。
私は冷静な自分を、どこか遠くから見ている。
先程の言葉は、自身の口から出たとは思いたくないほど、無慈悲な響きだった。
こんなに冷たい声を出せるんだと、私は驚く。
冷静な自分の言葉に、恵は信じられないような顔をこちらへ向ける。
「そんな顔を向けられても困る。」
それは冷静な自分か、それとも私の言葉なのかわからなかった。
「あの〜。」
先程までこちらの様子を伺いつつも、話しかけてこなかった勇者が、華たちに声をかける。
「その人って、魔物ですよね?」
「魔物じゃなくて魔人ね。」
華の冷たい返答に、勇者は口を閉ざしかける。
訂正されたけど、魔物と魔人って違うのか?と言いたげな表情をする勇者だったが、華はわざわざ説明してあげるようなことはしなかった。
それで?と何が言いたいことがあるのなら早く言え、と態度で示す。
「その魔m……魔人ってあなたたちの仲間ですか?」
勇者が軽く武器を構えながら尋ねる。
その質問に、2人はすぐに返事をした。
「違う。」「そうです!大切な……」
華と恵は全く違う答えを口にした。
上手く聞き取れなかった勇者は、頭にハテナを浮かべる。
恵はもちろん、華が何を言ったのか聞き取れた。
そのうえで、自身の耳を疑った。
しかし、聞き間違いではなかったということが、すぐに分かる。
「私たちはこの人達に攫われた捕虜です。決して仲間なんかじゃない。」
「そんなっ」
恵が何か言いたげに口を開いたが、華の冷たい顔がそれ以上なにか口にすることを許さなかった。
ここまで態度が違う華に、恵はなにかの作戦なのかと思い当たった。
先程までの自分を反省し、少しずつ華の話に合わせるようにしていく。
無意識に、その胸に抱いたノアの体を強く抱き締め直す。
「なら僕たちと一緒に来ませんか?僕たちは仲間を助けに、そして魔王を倒して、世界を平和にするために来ました。それなりに強いと思います。きっとあなたたちの力になれる。」
恵がどうするのかと華を見つめる。
どうするかなんて、華はとっくに決めていた。
1歩前に踏み出し、言葉を口にしようとした瞬間。
目の前に大きな白いパネルが現れた。
それぞれに文字が書いてある。
『彼らの仲間になります』
『彼らを敵に回します』
華はそのパネルのうち、片方を勢いよくタップした。




