44.推し以外にも容赦なく
魔王城に、勇者パーティが乗り込んできた。
ゲーム上だと、魔王城での戦いは平均10時間ほどでクリア出来る。
それがこの世界ではどれぐらいの時間になるのだろうか。
華はこれから起こる出来事を思い出そうと、必死に頭をフル回転させた。
恵も同様に一点を見つめて、なにか考え込んでいる様子だった。
杏は助けに来てくれた仲間のことを思い、複雑そうな表情を浮かべていた。
しばらくして、会議を終えたヴォイドが部屋へ戻ってくる。
杏が何か言いたげにヴォイドを見つめると、彼が口を開いた。
「待機だ。もうわかっていると思うが、魔王城に侵入者が現れた。律儀に入口から堂々と。門番を倒して中へ突入したようだがまだ1階にいる。ここへ来るまでにはかなり時間がかかるだろう。そもそも、無事にここまで辿り着けるとは思えない。」
反論の意を唱えようとした杏。
言葉を発する前に、ヴォイドが遮る。
「仲間が心配か?」
「いえ、心配なんてしない。だって、」
杏が自身の胸元を強く握りしめる。
「お前がいるからか?どんな傷だって治してみせると?」
「もちろん!私だってここへ連れてこられてから、何もしてなかった訳じゃない。」
「ああ、確かに少しは能力が高まったかもしれない。だがそれは治療が間に合えばだろう?お前が負傷者の元へ辿り着き、治療をすることが出来るのなら、助けられるかもしれないが。」
「邪魔するって言うのなら……」
杏はヴォイドに鋭い視線を向けるが、ヴォイドは変わらず冷静なままだ。
「わざわざ邪魔などしない。俺はな。……俺はソル様からお前の護衛を任されただけだ。お前を監禁しろと命じられたわけではない。」
「え、なら……?」
これまでの生活で、何かヴォイドの心に芽生えたのではないかと、杏が少しの希望を持つ。
ただしその考えはすぐに打ち砕かれる。
「勘違いするな。手助けするつもりもない。お前らがソル様に危害を加えなければ、俺から攻撃する理由はない。たとえお前が負傷者を助けて再び戦えるような状態にしようとも。」
言い終えると、ヴォイドはいつものようにコーヒーを入れ始めた。
外がこのような状態で、落ち着きを払っているのはヴォイドだけではない。
魔王城のほぼ全ての幹部たちが、ヴォイドと同じような状況なのだ。
魔王はこの状況を少しも焦っていない。
だからそれを見た幹部たちも、大したことでは無いのかと落ち着いているのだ。
この状態こそが、勇者パーティが勝つチャンスとなるのだが、それを知っているのは華と恵だけだった。
「華ちゃん。」
突然、恵が華に話しかける。
その目は少しだけ潤んでいた。
華は恵が何を言いたいのかだいたい分かっていた。
「華ちゃん、私、助けたい。だってめちゃくちゃお世話になった。まだ、お別れしたくないよぅ。」
誰が、とは言わなかった。
それでもゲーム流れを知っている華だけには伝わった。
「うん、恵ちゃん強くなったし、助けられると思う。私も、力になれるか分からないけど、一緒に行く。」
華は杏のことをちらりと見た。
これからのことを考えると、杏には一緒に着いてきて欲しかった。
けれどそれではルートが変わってしまう可能性がある。
杏にはなるべくゲーム通りの行動を取ってもらわなければいけなかった。
変則的な行動が許されるのは、ゲーム本編に登場しないはずの華達だけ。
「杏さんはここで待って!私たちはちょっと様子を見てくる。」
「……え、でも。」
出入口に向かう華と恵。
杏はもちろん2人について行こうとした。
「大丈夫!杏さんはここで状況確認してて。杏さんが来たらヴォイドさんまで着いてくることになるし。そしたら杏さんの仲間が急に強い敵と戦うことになっちゃう。」
ヴォイドの強さに気がついている杏は、それ以上何も言ってこなかった。
心配そうな顔をして2人を見つめる。
ヴォイドは部屋から出ていこうとする華達を、止めようとしない。
沈黙は許可だと、2人は部屋から出ていった。
向かうは1階。
勇者パーティが現在戦っている場所。
ゲーム本編通りにストーリーが進んでいるのであれば、この時間に1階を担当していたはノアだ。
魔王城の中に突入して、勇者パーティが初めに戦うのはノアだ。
そしてノアは残念ながらあっさりと負けてしまう。
ノアは立派な幹部の一人だ。
そのノアが倒されてしまうことで、魔王城に緊張が走ることとなる。
そして、ただ負けるだけではない。
ノアはその戦闘で命を落としてしまうのだ。
そんなに簡単に倒されるなんて、私たちが今まで見てきたノアからは想像できない。
だがゲーム上では、ノアは魔王城でのチュートリアルの一部に過ぎない。
魔王城に入るとゲームスタイルが少々変わる。
それをユーザーに理解してもらうための、練習台のような存在にされてしまうのだ。
華と杏はどちらからともなく魔王城を走った。
1番下の階まで降りるので、距離はそこそこある。
途中で華の方がバテてしまった。
「恵ちゃん、先に行って!」
その言葉に戸惑いつつも、恵は頷き華を置いて再び走り出した。
「絶対間に合って!」
「うん!」
華が前を走る恵にエールを送る。
恵からは力強い返事が返ってきたのだった。




