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推しに夢中  作者: 虚月 悠奈


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44/47

44.推し以外にも容赦なく

魔王城に、勇者パーティが乗り込んできた。

ゲーム上だと、魔王城での戦いは平均10時間ほどでクリア出来る。

それがこの世界ではどれぐらいの時間になるのだろうか。

華はこれから起こる出来事を思い出そうと、必死に頭をフル回転させた。

恵も同様に一点を見つめて、なにか考え込んでいる様子だった。

杏は助けに来てくれた仲間のことを思い、複雑そうな表情を浮かべていた。


しばらくして、会議を終えたヴォイドが部屋へ戻ってくる。

杏が何か言いたげにヴォイドを見つめると、彼が口を開いた。


「待機だ。もうわかっていると思うが、魔王城に侵入者が現れた。律儀に入口から堂々と。門番を倒して中へ突入したようだがまだ1階にいる。ここへ来るまでにはかなり時間がかかるだろう。そもそも、無事にここまで辿り着けるとは思えない。」


反論の意を唱えようとした杏。

言葉を発する前に、ヴォイドが遮る。


「仲間が心配か?」

「いえ、心配なんてしない。だって、」


杏が自身の胸元を強く握りしめる。


「お前がいるからか?どんな傷だって治してみせると?」

「もちろん!私だってここへ連れてこられてから、何もしてなかった訳じゃない。」

「ああ、確かに少しは能力が高まったかもしれない。だがそれは治療が間に合えばだろう?お前が負傷者の元へ辿り着き、治療をすることが出来るのなら、助けられるかもしれないが。」

「邪魔するって言うのなら……」


杏はヴォイドに鋭い視線を向けるが、ヴォイドは変わらず冷静なままだ。


「わざわざ邪魔などしない。俺はな。……俺はソル様からお前の護衛を任されただけだ。お前を監禁しろと命じられたわけではない。」

「え、なら……?」


これまでの生活で、何かヴォイドの心に芽生えたのではないかと、杏が少しの希望を持つ。

ただしその考えはすぐに打ち砕かれる。


「勘違いするな。手助けするつもりもない。お前らがソル様に危害を加えなければ、俺から攻撃する理由はない。たとえお前が負傷者を助けて再び戦えるような状態にしようとも。」


言い終えると、ヴォイドはいつものようにコーヒーを入れ始めた。

外がこのような状態で、落ち着きを払っているのはヴォイドだけではない。

魔王城のほぼ全ての幹部たちが、ヴォイドと同じような状況なのだ。

魔王はこの状況を少しも焦っていない。

だからそれを見た幹部たちも、大したことでは無いのかと落ち着いているのだ。


この状態こそが、勇者パーティが勝つチャンスとなるのだが、それを知っているのは華と恵だけだった。


「華ちゃん。」


突然、恵が華に話しかける。

その目は少しだけ潤んでいた。

華は恵が何を言いたいのかだいたい分かっていた。


「華ちゃん、私、助けたい。だってめちゃくちゃお世話になった。まだ、お別れしたくないよぅ。」


誰が、とは言わなかった。

それでもゲーム流れを知っている華だけには伝わった。


「うん、恵ちゃん強くなったし、助けられると思う。私も、力になれるか分からないけど、一緒に行く。」


華は杏のことをちらりと見た。

これからのことを考えると、杏には一緒に着いてきて欲しかった。

けれどそれではルートが変わってしまう可能性がある。

杏にはなるべくゲーム通りの行動を取ってもらわなければいけなかった。

変則的な行動が許されるのは、ゲーム本編に登場しないはずの華達だけ。


「杏さんはここで待って!私たちはちょっと様子を見てくる。」

「……え、でも。」


出入口に向かう華と恵。

杏はもちろん2人について行こうとした。


「大丈夫!杏さんはここで状況確認してて。杏さんが来たらヴォイドさんまで着いてくることになるし。そしたら杏さんの仲間が急に強い敵と戦うことになっちゃう。」


ヴォイドの強さに気がついている杏は、それ以上何も言ってこなかった。

心配そうな顔をして2人を見つめる。

ヴォイドは部屋から出ていこうとする華達を、止めようとしない。

沈黙は許可だと、2人は部屋から出ていった。


向かうは1階。

勇者パーティが現在戦っている場所。

ゲーム本編通りにストーリーが進んでいるのであれば、この時間に1階を担当していたはノアだ。


魔王城の中に突入して、勇者パーティが初めに戦うのはノアだ。

そしてノアは残念ながらあっさりと負けてしまう。

ノアは立派な幹部の一人だ。

そのノアが倒されてしまうことで、魔王城に緊張が走ることとなる。


そして、ただ負けるだけではない。

ノアはその戦闘で命を落としてしまうのだ。

そんなに簡単に倒されるなんて、私たちが今まで見てきたノアからは想像できない。

だがゲーム上では、ノアは魔王城でのチュートリアルの一部に過ぎない。

魔王城に入るとゲームスタイルが少々変わる。

それをユーザーに理解してもらうための、練習台のような存在にされてしまうのだ。


華と杏はどちらからともなく魔王城を走った。

1番下の階まで降りるので、距離はそこそこある。

途中で華の方がバテてしまった。


「恵ちゃん、先に行って!」


その言葉に戸惑いつつも、恵は頷き華を置いて再び走り出した。


「絶対間に合って!」

「うん!」


華が前を走る恵にエールを送る。

恵からは力強い返事が返ってきたのだった。

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