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推しに夢中  作者: 虚月 悠奈


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43/47

43.推しの力になれるのは私ではない

「恵ちゃん、今がチャンス!」

「まっかせて〜!とーーっう!!」


まるで日曜朝にやっているアニメを見ているような、そんな気分で華は杏と恵を見ていた。

2人は魔王城の庭に湧いた、野良の魔物に対して戦いを挑んでいた。

見た目は牛に似ているが、角がとても大きく成長しており、顔は怖い。

二本足でたっており、大きい棍棒を背負っていた。


最初は2人で少しずつ体力を削り、隙を見て杏が魔法で魔物の動きを止める。

恵がジャンプしながら大きく振りかぶって、手に持っていた剣を上から叩き込んだ。

剣はソフィアがプレゼントしてくれたらしい。


杏はゲームの住人で治癒魔法が使えるため、理解できる。

魔人が使う能力とは別物らしいが、独自のセンスで簡単な拘束魔法や攻撃魔法などを生み出したらしい。

驚いたのは恵の成長だ。

恵は華と同じ普通の人間である。

にも関わらず、人間離れした動きを身につけていた。

ゲームの世界の住人と間違えられてもおかしくない。

聞けば、元々趣味で剣道や弓道をやっていたことがあるらしい。

とはいえブランクは少なからずあるだろう。


「あとはまぁ、ここ最近はノアの筋トレに付き合ってたりとかしたからかな?」


魔物を倒し終えて、木陰で休憩している恵が華の疑問に答える。


「でもそれを考慮しても、さすがにすごくない?ありえないぐらい飛んでたよさっき!アニメキャラみたいだった。」

「それは自分でもびっくりした!なんか気がついたら宙に浮いてた(笑)」

「恵ちゃんはこの間も魔物に攻撃された時、クルって宙返りしながら避けてて凄かったよ!歴戦の戦士って感じ。はい、これスポドリ。軽く治癒魔法かけてポーションみたいにしてるから。」


杏は用意していたクーラーボックスからボトルを取り出し、杏に渡す。


「杏さん、ありがとう〜。そう言われると、なんか照れるな〜。」

「はい、華ちゃんも。」

「え、私も!?さっきは見てただけだし。」

「いいのいいの!まぁジュース感覚で飲んでみて。」


華も杏からドリンクを受け取り、躊躇いつつも封を開ける。

爽やかなグレープフルーツの香りが漂い、その匂いにつられてごくごくと喉を潤した。


「めちゃくちゃ美味しい!普通のスポドリよりも!」

「ほんとだ、ポーション風にするとこんなに美味しいの!?」


華も恵もあまりの美味しさに、一気に飲み干してしまう。


「よかった〜。けど逆、逆。ポーションって普通は薬の味がして美味しくないんだけど、それをスポドリベースにすることで飲みやすくなったって感じ。」

「へ〜。さすが杏さん。」


ポーションを飲んだ2人は、体が幾分か軽くなったのを感じる。

2人ともこちらの世界の正式なポーションを飲んだことはないが、確かにこれがポーションの力か、と実感する。

そして華は体と同時に、少しだけ心が軽くなったのも感じた。

恵の方を見ると、考えていることを読まれたのか、ウインクが返ってきた。


ここ最近、自分の力があまりにも伸びなくて、華は落ち込んでいたのだった。

2人がメキメキと力をつけている間、華は未だに低級のスライムすら倒せていない。

杏みたいに魔法を使えるようになった訳ではなく、恵のように身体能力が向上した訳では無い。


第三者からすると努力が甘いのだが、華はそのことに気付けていなかった。

そして、残念ながら華が今以上に努力していたとしても、力をつけていた可能性は限りなく低かった。

どんな優秀な子であっても、適材適所というものがある。

ソフィアが感じていた通り、戦闘は華に向かないのであった。


それでも華は諦めなかった。

かっこよく戦っている自分を想像しながら、頑張れる範囲で日々特訓を続けた。

そして、訓練を始めて1ヶ月後のこと。


その日は訓練がお休みの日。

杏と恵、華はヴォイドの部屋で休息日を楽しんでいた。

3人で身を寄せ合い、皆で今日はどんなデザートを作ろうかと話し合っていた。

このプチ会議にヴォイドも無理矢理参加させて、意見を聞く。

楽しい雰囲気に水を差す連絡が、ノックの音とともに届いた。


「ご歓談中のところすみません。ヴォイド様、緊急招集です。」


その言葉にすっと立ち上がるヴォイド。

ただならぬ雰囲気を感じて、部屋の空気はピリついた。


「すぐに向かう。」


すれ違いざまに、部下がヴォイドに何かを耳打ちする。

はっきりとは聞こえなかったが、微かに杏の名前が聞こえた気がした。

3人ともそれは聞きとったらしく、互いに目を合わせた。

なかでも華と恵はこの出来事に心当たりがあり、目と目で会話した。


「……間に合わなかった」


小さく呟く華。

恵にだけ聞こえたようで、恵が華を見つめる。

口パクで「勇者ルート」と伝えた。

上手く伝わったのか、普段笑顔の多い恵の顔が強ばった。

恵はようやく理解した。

なぜ華が急に、ソフィアに特訓してもらうようになったのか。

護身のためではない。

みんなを守りたいというのも嘘では無いが、1番の目的では無い。


勇者ルートでは、ヴォイドが死亡する。


この世界がどれぐらいゲームの筋書き通りに進むのか分からないが、華はどうしてもそれを阻止したかったのだ。

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