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推しに夢中  作者: 虚月 悠奈


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37/43

37.推しとは違った魅力

男子禁制のティータイムに終わりを告げる出来事が。

ソフィアの部屋の前に、あるひとりの男が立っていた。

男は部屋の中の気配を探り、その結果、華やかな空気に水をさしてもいいものかと思案していた。

軽く深呼吸して、意を決して扉を叩く。

コンコンと控えめな音が鳴った。


「はい。ああ、君か。」


部屋の主であるソフィアが、返事をして立ち上がる。

ソフィアもまた、男と同様に気配で誰が扉の向こう側にいるのか気がついた。


「え、ノア?久しぶりじゃない!?」


ソフィアにドアを開けてもらい、中に入った男を見て、華が声を上げた。


「ああ、久しぶりだな。元気、……ではなかったんだよな、来るのが遅くなって悪い。先程まで任務で遠征していたんだ。」

「そんな謝らないで!」


軽く頭を下げるノアに、華が慌てる。


「さっき遠征の報告をしに、玉座に行ったんだ。そこで魔王様に色々聞いた。肝心な時に助けてやれなくて、すまなかった。」


ノアが再び頭を下げる。

華は首を大きく横に振った。


「ほんとに!気にしないで!ソフィアさんが助けてくれて、杏さんが傷も治してくれて、今は美味しいお菓子とお茶を楽しんでるし、この通り元気いっぱい!」


正直、嘘をついていた。

今この瞬間が幸せなのは確かだが、サミュエルのことはそう簡単に華の頭から離れていかない。

色々な感情を押し殺して、ノアには笑顔を向けていた。

その表情に、ノアはもっと複雑そうな顔をする。


少し気まずい2人の空気を、ソフィアが変えてくれた。


「華、杏。今日は本当にありがとう。お迎えも来たことだし、今日はお開きにしようか。また今度改めてお茶会を開こう。ぜひこの子達に会いに来てくれ。」


やったー!またお姉さんたち来てくれるの?と喜ぶ女の子に、華と杏の顔が綻ぶ。


「またねー!エヴァちゃん」

「杏お姉さんまたね!」

「また遊びに来るからね。」

「嬉しい!待ってるね、華お姉さん!」


部屋のギリギリまで手を振って見送ってくれる女の子に、寂しさを覚えながらも、華と杏、ノアの3人は、ソフィアの部屋をあとにした。


「やっぱり強いな。」


部屋を出てしばらくして、ノアが呟く。

その声に華は首を傾げた。


「強い?」

「えっ?ああ、口に出てたのか。ただの独り言だ気にしないでくれ。……ただ……。」

「ただ?」


杏が聞き返したが、ノアからの回答はなかった。


「ソフィアさんが、いや、女の人が強いのって、やっぱ思うところがあるんですか?」

「思うところ……、やはり男として情けないとは思うな。いつか必ず彼女を超えてみせる。」


華は思い出した。

そういえば、ゲームでノアは、ことある事にソフィアに決闘を申し込んでいた。

ストーリー上強制的に戦闘イベントとなるのだが、すべて負けイベなので、いつもプレイヤーが操作するノアはボコボコにされてしまう。

ごめん、と心の中で華は手を合わせて謝った。


そんなこんなで、すぐにヴォイドの部屋へとたどり着いた。

てっきりノアの部屋に案内されるかと思ったので、華と杏は拍子抜けした。


「あれ、ここに送ってくれるんだ。何か私たちに用があったんじゃなくて?」

「そうだ。特に用事は無い。ただ、ヴォイドに頼まれたからな。」

「ヴォイドさんに?」


部屋の中に入ると、そこには誰もいなかった。


「ヴォイドは今魔王様に呼ばれていてな。まぁすぐに戻ってくるはずだ。」


部屋の中に入ろうとしないノアに手を振ろうとしたところで、視界が急にキラキラした。


───ヴォイドさん帰ってきた!


華は推しを見つめようとした。

実際には目線は足元。

華は今、こうして五体満足で推しと交流出来て、思わず涙が込み上げてきた。


「今帰ったのか。遅かったな。」


ノアの後ろから声が聞こえる。

ノアとヴォイドは共に背が高いのだが、ノアの方が筋肉があり大柄なので、ヴォイドの姿がすっぽりと隠れてしまっていた。


「ノアが慌ててヴォイドに道を譲る。」


「悪いな。ソフィア達と楽しそうにしてて、申し訳ないなと見守ってたらこんな時間に……。」

「まぁいい。おい。」


ヴォイドが誰かを呼び止めたようだが、名前を呼ばれていないため、誰に話しかけているのか分からなかった。


華とヴォイドの目が合う。

華の体は硬直した。

筋肉が固まってしまったのだろうか。

そう錯覚するぐらい、その一瞬の間はガチガチに固まった。

しかし、すぐにヴォイドの目線は杏の方へと移った。


「お前、脳は治せるか?」

「「脳?」」


ヴォイドの言葉に、華と杏は声を揃えて反応した。


「そうだ。脳だ。」


そう言って、ヴォイドは紙の束を机に置く。

杏がそれを手に取り、華はそれを覗き込んだ。

『調査書』と書かれたそれは、とても綺麗な字で丁寧にまとめられていた。

恐らくペンで一発書きされているはずなのに、訂正されたあとは一切ない。

内容にざっと目を通している杏にヴォイドが再び問う。


「それで、出来るか出来ないか、どちらだ。」


鋭い視線を向けるヴォイドに、杏は躊躇わず堂々と首を縦に振った。


「私の力、見くびって貰っちゃ困ります。もちろんできます!」


ヴォイドが満足気に笑ったような気がしたが、それを感じ取ったのは華だけだった。

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