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推しに夢中  作者: 虚月 悠奈


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34/41

34.推しとジャンヌ②

「失礼します。」

「ああ、悪いが要件は手短に頼む。お前たちも知っての通り、私は今あまり時間が無い。」


薄暗い部屋に響く男女の声。

男は玉座のようなものに座って、肘掛に頬杖をついて、足を組んでいる。

女は男の前にかしずき、頭を垂れた。


「お忙しいところ申し訳ありません。ソル様。」


女は下げていた頭を少しあげて、発言する。

ソル様、魔王の顔色を伺い、その顔が続きをうながしているのをみとめて、再度口を開いた。


「以前からご報告させていただいたサミュエルの件ですが、やはり目に余るものがございます。ソル様の目的に必要な人材であることは重々承知の上ですが、あの者の追放を進言いたします。」


その言葉に魔王は短くため息をついた。


「どのような実害が出ている?」

「私が知っている範囲だけでも、魔物の改造、無意味な殺害、魔王城内での無断実験による魔族の負傷…………。この間の捕虜にやたら執着しているらしく、また何か危害を加えているようです。それから個人的な恨みも。」

「個人的な恨み?君が言うなら余程だろう。」

「はい、……。昨日からウィルとエヴァが行方不明になりました。探せるところは全て探し、残りはあいつの部屋のみです。」


魔王の眉がピクリと動く。


「どうか、やつの処罰を私にお任せいただけないでしょうか?せめて、奴の部屋に捜索へ行く許可を。」


言いたいことを全て言い終えて、女は深々と頭を下げる。

魔王は足を組み替えた。


「許可する。捜索と、それから城内での戦闘を。」

「ありがとうございます。では早速行ってまいります。」


さっと女が立ち上がると、魔王がそれを引き止める。


「まて、ソフィア。すまないが行く前にこの女をヴォイドの部屋に連れて帰って欲しい。」


魔王が玉座の左側に立つ女を、目線で示す。

先程まで大人しくしていた話題の女は、急に慌てたように手を頭に当てた。


「あ、えっとすみません。何か大切そうな話の時に。出ていくタイミングを見失っちゃって。」


ソフィアはその女のことを認識はしていた。

魔王の部屋に入った時に、杏は既に玉座の隣にたっており、その堂々とした佇まいから側近の誰かだろうと思い、さして気にしていなかった。

改めて杏のことをよく見て、それが最近捕虜となった杏と呼ばれる魔法使いだと気づいた。


「……承知しました。ですが、この方を少々お借りしてもいいでしょうか?最悪の場合を考慮して、彼女も連れていきたい。」

「構わない。」


杏の意志が聞かれることが無いまま、杏はソフィアと行動を共にすることを余儀なくされた。






「サミュエル。貴様は私が制裁を加える。」


サミュエルの部屋に突如現れたロングヘアの美女が、サミュエルに剣の切っ先を向ける。

華はその女性の姿を見て、思わず叫びそうになった。


───ソフィアだ!


彼女は乙女ゲームに出てくる登場人物の1人、魔王の幹部のソフィアだ。

見た目通り女性なのだが、女性の心を鷲掴みにするキャラクターで、実は攻略対象のひとりでもある。唯一の百合ルートだ。


「おっと、僕は魔王サマにとって貴重な存在だ。怒られても知らないよ?」

「ソル様から許可はいただいた。」

「はぁ!?そんなはずはない。なぜなら魔王は……」

「黙れ。御託は十分だ。2人を返してもらおう。」


ソフィアはサミュエルの言葉を遮り、さらに強く剣を握りしめ、サミュエルに詰め寄る。


「ママ!」


華の目の前で、兄の体を抱えていた女の子が、ソフィアに向かって叫ぶ。

ソフィアはその声に反応し、驚くべき速さで次の瞬間には華の目の前に立っていた。

ソフィアは自身の目に映る光景に絶句する。

可愛い息子が、目の前で息絶える直前だった。


男の子はヒューヒューという呼吸音で、かろうじて息をしている。


「か……さ、ごめ……さい。……ぼ、く……」

「……喋るな。大丈夫だ。安心して目を閉じていろ。すぐに良くなる。」


ソフィアが男の子の頬に手を当て、輪郭をなぞる。

そして、その手を男の子の目元に持っていき、まぶたを閉じるよう促した。

男の子は安心したように軽く微笑んで目を閉じた。

その様子が男の子の命を諦めているかのように見え、華は最悪を想像した。


男の子を中心に捉えながらも、華の視界にサミュエルが写る。

卑怯なことに、背を向けているソフィアに対して剣を振り上げていた。

ひゅっと華の息が詰まる。

危ないっと頭の中で叫んだが、実際に声に出していたかどうかわからなかった。


キーンっと金属と金属がぶつかる音が響く。

華は驚きで目を見開いた。

ソフィアが一瞬の間に女の子を自身の元に引き寄せ、壁になりながら、後ろ向きのままサミュエルの剣を自身の剣で受けたのだ。

まるで背中に目がついているかのようにごく自然に行われたそれ。

ソフィアの剣圧に負けて、サミュエルが後ろによろける。


ソフィアは女の子を安心させるように頭をひとなでして立ち上がった。

サミュエルに向かって剣を振り下ろしながら、入口にいる人物に声をかける。


「杏といったな。私の息子を頼む!貴女の力、信じているぞ!!」


杏はその言葉に力強く頷いて、戦っているふたりの横を走り抜けて男の子の元へと向かった。

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