26.推しからの確定ファンサ
「……は?……で、一緒に……したら……。」
遠くで女性の声が聞こえる。
華はその声に起こされるように、薄らと目を開けた。
部屋が随分と静かに感じる。
部屋は真っ暗で、寝起きの目には何も映らない。
体は温もりに包まれていた。
───あれ?私何でベッドに?確か、杏さんと勉強してたはずじゃ……。
昼間のことを思い出しながら、徐々に意識を覚醒させていく。
華は完全に目を開ききると、布団から片手を出した。
暖かな布団に包まれていた手は、外の空気に触れて少し震えた。
その手をカーテンに手を伸ばし、少しだけ開ける。
外も部屋と同様に真っ暗で、月明かりが一筋差し込んだ。
───外がもう真っ暗だ。長い時間寝ちゃったのかな。
華は体の向きを変えて、隣のベッドを見た。
布団は膨らんでいない。
杏はまだ寝ていないようだった。
少し寂しさを覚えながらも、華は先程から微かに聞こえてくる声に耳を傾けた。
その声は寝室の扉が閉まっているせいで、よく聞き取れない。
華はまだ目覚めきっていない体を起こして、そこらへんに置いてあったカーディガンを羽織り、扉へと向かった。
「……。じゃあその時間からずっと、杏さんは帰ってきていないんですね。もうだいぶ遅いけど、心配じゃないんですか?」
「ソル様の元にいて、何が心配なのかが理解できん。」
「まぁそれもそうか。魔王様から呼び出しかかるまでヴォイドさんは待機って感じなんですね。」
「ああ。」
華が寝室のドアを少しだけ開くと、やっとはっきり声が聞こえるようになった。
声の主は恵とヴォイドだった。
もっと耳を澄ますと、カチャリカチャリと食器の音も聞こえてきた。
そして声だけでなく、出汁のいい匂いが鼻をかすめる。
「美味しい〜。今日は一段と美味しく作れたと思います!和食って言って、私の故郷の料理なんですよ。献立は焼き魚、お味噌汁、白米、お漬物っていう、王道で用意させていただきました!」
焼き魚と白米を口に運び、恵はお箸を持つ手と逆の手で、自身の頬に手を当てる。
こぼれ落ちそうなほっぺを支えているみたいだった。
「……悪くない。」
そう言いながら、ヴォイドはお味噌汁を啜った。
使ったことなんてないはずなのに、器用に箸を使って豆腐やわかめも食べる。
「あ、やっぱお味噌汁好きですか?私も好きです!なんかお出汁が体に染み渡って良いですよね。」
2人が晩御飯を食べている様子を、華はただ眺めることしか出来なかった。
2人に声をかけながら部屋を出たらいいだけなのだが、足が動かない。
カーディガンの裾をきゅっと掴んだ。
「なんか不思議な感じ。ヴォイドさんが和食食べてる(笑)」
ヴォイドの口数はそこまで多くなく、大半は恵が話しているだけだ。
それでも時折返事はしていて、ふたりの会話は成り立っている。
恵がヴォイドを見つめる目は甘く蕩けていて、とても幸せそうだった。
華の位置からは、ヴォイドの表情はよくわからなかった。
「魔族は郷土料理、なんか魔族が好んで食べる料理とかってあるんですか?」
「ある。」
「え!ほんとですか?今度作り方教えてください!作れるようになりたいです。」
「他の女に頼めばいい。」
「ヴォイドさんがいいんです!作れるんですよね?お願いします。」
頭を下げて手を合わせ、可愛く懇願する恵。
ヴォイドはやれやれと言った表情をする。
「勝手にしろ。」
「やったー!約束ですからね。」
恵はニコニコとヴォイドを見つめた。
ヴォイドが先程まで持っていた箸を丁寧に箸置きに置く。
ヴォイドと恵はテーブルを挟んで向かい合って食事をしていた。
不意にヴォイドが立ち上がる。
恵は少し驚いた表情でヴォイドを見上げる。
ヴォイドはそのままテーブルを回り込んで恵の目の前に立つ。
恵の顎に手を添えた。
ヒュッと息を飲む音が恵から聞こえる。
ヴォイドは恵の顎をクイッとあげて、目線を合わせる。
そのまま数秒間、2人は見つめあった。
恵の頭は混乱していたが、状況を理解して、茹でダコのように顔を真っ赤に染め上げた。
ヴォイドがしゃがんで更に顔を恵の方へ近づける。
それを見た華は、爪が食い込むほどに手を握りしめた。
そのままキスをするのではないかと思うような2人の距離。
心臓がバクバクと鳴り響いた。
もちろんキスをするなんてことはなく、ヴォイドがパッと手を離して前を向く。
「……やはりそうか。」
「ど、どういうことで、すか。」
恵の声は裏返っていた。
無意識に息を止めていたのか、一気に空気を吸い込み、荒く呼吸をする。
恵の言葉にヴォイドは返事をしなかった。
「ヴォイド様」
突然のノック音が部屋に響き渡る。
恵と華の体がビクリとする。
「なんだ。」
「ソル様がお呼びです。」
「わかったすぐに行く。」
部下からの言伝を聞いて、ヴォイドは襟を正す。
颯爽と声の元へと向かい、扉をあけて部屋から出ていってしまった。
「んん〜〜〜〜〜〜〜。」
残った恵は一人で悶えていて、顔を手で覆いながら、足をバタバタさせていた。
華はそっと扉を閉じて、再度ベッドに潜り込む。
布団を深く被って目を強くつぶり、外界をシャットダウンした。




