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推しに夢中  作者: 虚月 悠奈


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25/41

25.推しとミニゲームマスター

「華ちゃーん!お昼ご飯行こー!」


元気な恵の声が廊下に響き渡る。

ここの壁は薄くはないのだが、それでもしっかりとドア越しに声が届く。

華は廊下へと繋がる扉を開いた。


「華ちゃん、おはよう、かな?まだ眠そうだね。起こしちゃったんならごめん。そろそろ13時だし食堂にご飯食べに行かない?」

「ふぁぁ……。おはよう。また昼まで寝ちゃってたみたい。すぐ支度するね中入って……」


眠い目をこすりながら、華は恵に答える。

視界がだんだんとクリアになっていく中、恵の後ろに楓の姿が見え、華は一気に目を覚ました。

後ろのふたつの目が華をじっと見つめているような気がして、背筋に悪寒が走る。

そんな華の後ろから、杏が顔をひょっこりと出した。


「こんにちは、恵ちゃん。」


華の肩越しに顔をのぞかせて、ヒラヒラと手を振る杏に、恵と楓も手を振り返す。

2人ともニコニコと爽やかな笑顔を向けていた。


「あ、杏さんこんにちは〜。もちろん杏さんも一緒に行こ!準備……はもう出来てるのか!あとは華ちゃん待ちかな。」


お邪魔しまーすと恵が部屋に入りかけた時、杏はそれをやんわりと遮った。

華の後ろからサッと前に出てきて、リビングへと続く道を塞ぐ。

その行動にきょとんとする恵。

華も何をしているんだろうと頭にハテナを浮かべた。

恵は頭を下げて、恵の顔の前で両手を合わせる。


「ごめん!この間食堂行ってからなんかお腹の調子が悪くて……。ここの豪華な食材を使った料理が合わなかったみたい。ちょっとトラウマになっちゃったから、出来ればしばらくは恵ちゃん達だけで行ってもらえないかな?」


杏の勢いに圧倒されつつも、恵はその言葉に答える。


「え!?大丈夫?気がつかなくてごめんね。何か買ってきてもらおうか?お医者さんとか連れてきてもらう?」


恵の気遣いに感謝を述べながら、杏は自身のお腹をさすった。


「んーん、大丈夫。食材はまだあるし、それで胃に優しい料理食べてたら自然と治ると思う!ありがとう!」


杏の言葉に華も驚く。

1番近くにいたはずなのに、杏の体調不良に気がつけなかった。

そんな自分が恥ずかしかった。

自分は何度も助けて貰っているのに。

華はなにか言いたげに口を開いたが、結局何も言えずに口を閉じて再度2人を見守る。


「分かった。お大事にね。華ちゃんは行ける?体調とか大丈夫?」

「あ、うん。私は大丈夫……」

「あー、それなんだけど、私と華ちゃんはあまり離れるのは良くないと思ってて、申し訳ないけど、華ちゃんもお留守番でいい?」


そう言いながら、杏はヴォイドの方を見た。

ヴォイドはこちらに顔を向けているものの、こちらに焦点があっているのかどうか分からない。

ただ景色として私たちを眺めているのかもしれなかった。


「ヴォイドさんは、私と華ちゃん、両方の担当になってるからね。どっちかひとりじゃなくて、両方を監視する必要があるってことは、私と華ちゃんはいつも行動を共にしなきゃいけないってことだと思う。ね、ヴォイドさん」


華達を静観していたヴォイドが、体の前で両手を組んだ状態のまま答える。


「いや、……」


否定の言葉が聞こえた瞬間、杏はヴォイドを睨みつけた。

杏が1番ヴォイドに近いところにいて、華達に背を向けていたため、杏の表情に気付ける者はヴォイドのみだった。

もちろん杏に怯むヴォイドではないが、何かを汲み取り意見を変える。


「……そうだな。纏まっていろ。その方が監視しやすい。なるべく手間をかけさせるな。」


「「はーい。」」


華と杏の返事が重なる。

杏はくるりと恵の方に向き直る。


「てことでごめんね、気をつけて行ってきて!」


そう言って別れの挨拶をしあったあと、杏は扉をパタリと閉じた。

リビングに戻ろうとする杏を追いかけながら、華は口を開く。


「あの、体調悪いの気づいてなくてごめんね。しんどかったら横になってて。ご飯とかも私が作るよ!うどんとかお粥がいいのかな?」


その言葉に杏は優しく笑いかけた。


「ふふ、ありがとう。でも大丈夫だよ。食堂に行くの気分が乗らなくて、つい咄嗟に嘘ついちゃっただけ。」

「え?そうなの!?じゃあお腹は」

「全然痛くない!元気!なんなら腹痛も私の魔法で治せちゃうしね。」

「そっか、なら良かった……。」


杏が握りこぶしを作って、華に元気なことをアピールする。

それを見て、華の顔も綻んだ。

正直なところ食堂へ行かない流れになって、華はほっとしていた。

例のあの日から、華は楓のことが苦手だったからだ。


杏とふたりで食べたブランチのエッグベネディクトは、とても美味しく感じられた。

ヴォイドは今日、一緒に食べてくれなかったのだが、それでも華にとっては満足の得られる食事だった。


午後は特に用事もなく、魔界語の勉強がてら、ヴォイドの蔵書を借りてふたりで読書タイムだった。

華はミニゲームである程度覚えていたため、杏を驚かせた。

といっても華も分かるのはゲームに出てきた単語だけで、常用の言葉などはよくわかっていなかったのだが。


───やっぱりゲームとかじゃないと中々やる気出ないなぁ。


お腹もいっぱいになり、難しい言葉は諦めてきて、華はうつらうつらと船を漕ぎ始めた。

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