24.推しと注文の多い食堂②
「え、いつも食べてるんですか?恵ちゃん辛いの得意なタイプだったんだ。意外……。」
華の言葉に楓が答える。
しかし、顔は華の方を向いていない。
「あー、そう。私と違って得意みたいだね。」
素っ気なく感じるのは華の勘違いなのだろうか。
楓のおすすめメニューを聞こうかと思っていた華だったが、やめておくことにした。
華、恵、杏、楓、ヴォイドは5人でテーブルを囲む。
食堂はたくさんの人で溢れていて、空いている席はなかった。
しかし、ヴォイドの姿を見た魔族達が一気に席を空けて譲ってくれたのだった。
ヴォイドはコミュニケーション能力が高いとは言えない。
故に親しい人だからという理由で、魔族は席を空けてくれたのではない。
ヴォイドの権力の強さを、華は改めて思い知った。
食事をしている間は何となくチームが別れてしまっているような感じになった。
楓は恵とばかり話していて、自然と溢れた華と杏が話す。
ヴォイドは黙食していた。
───杏さんと話すのは楽しい。けど……。
華は杏と話しながらも、話の内容に集中できていなかった。
どうしても恵と楓の会話が気になってしまっていたのだ。
それが何故なのか、華自身もよくわからなかった。
ただ、3人でヴォイドの部屋で話していた時に比べて、どうも居心地の悪さを感じてしまっていた。
恵と楓の笑い声がどうも引っかかる。
───こんなことなら、いつものようにヴォイドさんの部屋で食べればよかったな。
杏の話に愛想笑いを浮かべながら、華はあまり味のしない料理を必死に口に運んだ。
───あ、ヴォイドさん食べ終わってる。私ももうすぐ終わるしコーヒー持ってきてあげようかな。
ヴォイドの様子が視界に入って、華は席を立とうとした。
「あ!みんなもう食べ終わってる!私、食後のコーヒー貰ってくるね。みんなの分!」
先に立ち上がった恵の言葉に、ワンテンポ遅れつつも、華も続く。
「ひとりじゃ持てないだろうし、私も一緒に運ぶよ!」
「華ちゃんは座ってて!まだ無理させられないし、ヴォイドさんの目の届くところにいた方がいいと思う。」
杏が立ち上がろうとした華の肩にやさしく手を置き、座らせた。
「あ、ありがとう。じゃあ2人ともよろしくお願いします!」
「うん、任せて!楓はどうする?一緒に行く?」
恵が楓に声をかける。
楓がどう返事をするのか、華は気になった。
正直なところ、ヴォイドがいるとはいえ2人きりにはして欲しくなかったのだ。
「私はいいや!ここで待ってるからよろしくね〜」
「わかったー!じゃあ行ってきます。」
「「行ってらっしゃい。」」
恵と杏が席を立ち、先程まで賑やかだったテーブルは一気に静かになった。
華は頭の中をフル回転して話題を探す。
会ったばかりで親しくなく、相手のことをまだ何も知らない。
共通の話題として浮かぶのは恵のことだけだった。
華は膝の上で軽く握っていた自身の服の裾を、強く握りなおした。
「あの……」
「……ね、……。」
華とタイミングを同じくして楓が何かを呟いた。
しかし華には聞き取れなかった。
顔は相変わらずこちらを向いておらず、かなり小さい声で呟いたのだ。
「え?、あのごめんなさい、上手く聞き取れなくて……。」
楓の顔がようやく華の方を向いた。
あ、こんな顔してたんだと、華が呑気に思っていたところ、その顔がズイっと一気に華に近づく。
急で避けることも出来ず、華が固まっていると、楓が耳打ちをしてきた。
「残念でした。2人きりになれなくて。」
他人から向けられた言葉の中で、今まで聞いた事のないトーンだった。
ねっとりとしたような、こちらを下に見ているような、嘲るような。
華は悪寒が走った。
空気が凍りついた感じがする。
何も言い返せないまま数秒後、楓は何事も無かったかのように前を向き立ち上がる。
そのまま席を離れて後ろに歩き出した。
「あれ、楓ちゃんどうしたの?お手洗?」
「あ、恵ちゃんごめんね、用事思い出したから部屋に戻る!コーヒーは誰かほかの人にあげて!」
「分かった!じゃあまたね〜」
「うん、またね。杏さんもまたぜひご飯一緒に食べましょう〜」
華の後ろでそのような会話が聞こえた。
華は呆然と椅子に座ったままだ。
「華ちゃん、ヴォイドさんお待たせー!やっぱここのコーヒーいい匂いだし、豆挽くところからやってたよ。絶対美味しい!」
恵はコーヒーをテーブルに置く。
華から返事が返ってこないことを訝しんだ。
「華ちゃん……?」
杏も心配して声をかける。
その声に、華ははっとした。
「あ、ごめん!ぼーっとしてた。おなかいっぱいになって眠くなったのかも。」
「もー、華ちゃんは本当に眠り姫なんだから。」
恵の言葉に笑いを返す。
「その眠り姫、やめてってw」
「えー!だって本当じゃん。まぁ今は体力回復のためにもどんどん睡眠取らなきゃね。」
恵とやり取りしていくうちに、冷えきったその場が少しだけ和らぐのを感じた。
それでも華の心にはモヤモヤが残る。
それを誤魔化すように次の話題を恵に振る。
そんな華の様子を、杏は冷静に見つめていた。




