一緒にいてはダメな二人
更新、一日遅れました…
アルが何かを言う前に―――
「うむ、交流会という名の催しだ。このような青空の下で皆と一緒に食事するのも悪くなかろう。同席を許す」
ウルリッヒが愛想良く答えた。
「ありがとうございます!」
「えっ?!」
えええ~?!
これには、アルだけでなくベルティルデも驚いて小さく声を上げる。
……そりゃ、そうよね。パーセル候爵令嬢―――グレタは、露骨にウルリッヒにもアルにも色目を使うし、留学早々、ベルティルデにもすり寄った。
でもベルティルデは、「わたくし、貴方のような方は嫌いですわ」とはっきり宣言し、以来、グレタとは口をきいていないのだ。ウルリッヒの前で言ったから、彼もそれは知っているはずなんだけど。
グレタはベルティルデから「嫌い」と言われたことなど全く気にしている風もなく、満面の笑みでそそくさとウルリッヒのそばに腰を下ろす。そして、後ろの仲間を呼んだ。
「あなたたちも、早く、早く!」
呼ばれた他の生徒たちは、かなり複雑そうな顔だ。
見ると、彼女のグループはグレタを除けば六年生が一人、三年生が二人、二年生と一年生が一人ずつ。
六年生の男子は伯爵令息で、本来なら彼がリーダーだろうけれど……家格が上のグレタには逆らえないのだろう。他の子たちにいたっては子爵家や男爵家、それこそまともに意見も言えないに違いない。
アルの小さな溜め息が聞こえた。
ランチは、ほぼ、グレタの独壇場だった。
不思議なことに、ウルリッヒは聞き役に徹している。嫌そうな顔もせず、真面目にグレタの話に相槌を打ち、おかげでグレタはますます調子に乗った。
ベルティルデはそっぽを向いたままだ。
他の子たちが居心地悪そうなので、とりあえず私は彼女ら彼らと話をする。アルも加わったので、最初はみんなガッチガチに緊張していたけれど……そのうち、打ち解けてくれたのでホッとした。
さて、ランチを食べ終わり―――さほど経たずにリックが「歓談中、失礼しますが」と声を上げた。
「あまり昼食が長引くと、他を回る時間がなくなります。そろそろ、腰を上げるべきかと」
ありがとう、リック!
私も言おうと思ったけど、グレタが盛り上がっているから言い出しにくくて。
この場では、唯一平民のリック。だけど物怖じしないし、必要な意見ははっきり言うし、ホント、頼りになるわぁ。
そんなリックを、グレタは眉を寄せて蔑んだ眼差しで睨んだ。
「あら、まだ食べ終わったばかりで……」
「貴方、しゃべりすぎですわ」
グレタの言葉の途中でベルティルデが口を挟み、立ち上がる。
「これでは交流会ではなく、貴方の独演会でしてよ」
「なっ……」
「さあ、ウル。行くわよ」
あら。
ベルティルデって、ちょっとアナベル姉さまに似てるかも?カッコいい……?
そのまま、さっさとグレタたちと別れたかったけれど、グレタはウルリッヒにくっついてきた。
こんなに図々しく居座れるって、ある意味すごい。
「そうそう」
グレタは周りの非難の目も気にせず、ニコニコとウルリッヒを見上げる。
「先ほど、あの丘のそばであやしげな洞窟を見つけましたの。もしかすると、中に高ポイントの魔獣がいるかも?と思ったんですけれど、私の班は魔力の低い者が多くて、怖くて覗けなかったんですわ。ウルリッヒさまはお強いでしょ?一緒に……行ってくださらないかしら」
「洞窟?」
グレタの言葉に反応したのは、ウルリッヒではなくアルだ。
グレタの目が輝く。
くるっと振り向いて、グレタは両手を合わせる。
「ええ、洞窟です、アルフレッド殿下」
「……地図には載ってないね」
「はい。ですから、高ポイントの魔獣がいる可能性が高そうだと思って」
たまに、地図にはない隠しスポットがあって、そこの問題を解くとボーナスポイントが貰える場合がある。グレタが言っているのは、どちらかと言えばそれだろう。魔獣の隠しスポットは聞いたことがない。
アルは、考え込む顔になった。
「ちょっと気になるな。……案内してもらえるかい?」
「もちろんですわ!」
えっ、うそ?!グレタと一緒に行くの?
アルはそういうのには乗らないと思っていたのに!
結局、全員でその洞窟へ向かう。
ほんの数分ほど歩いただけで、その場所に着いた。
それは洞窟というより、穴だった。巨石と巨石の間に、下の方へと続く穴がある。
「ほう。かなり深そうだな」
ウルリッヒが覗き込んで、興味深そうに呟く。
グレタは嬉しそうに頷いた。
「ええ!中に入るにはちょっと勇気が入りまして……」
「馬鹿馬鹿しい。貴方だけで入りなさい。わたくしたちは、こんなところで時間を使っている暇はありませんわ!」
「お言葉ですが、ベルティルデさま。七つのポイントを回って問題を解くだけでは、勝てませんわ。魔獣を倒したり、隠しポイントの問題も解かなければ」
ベルティルデの言葉に、グレタが鼻で笑って答える。
まあ、確かにその通りなんだけど。だからって別の班を誘うっていうのはねぇ?
アルがウルリッヒに続いて、穴を覗き込む。
その後ろでベルティルデとグレタの応酬は続いていた。
「ここが隠しポイントだという証拠はありますの?」
「ですから、中に入ってみないと分かりませんし……」
「あら、いつも威勢が良いわりに、臆病ですこと!この程度の穴、一人でだって平気でしょう」
「まあ!ベルティルデさまはお一人でも入れると仰るのですか?」
「そうね、貴方は魔法王国の人間のわりに、大した魔法も使えないものね。怖くても仕方がないのでしょう。でもわたくしは、はるばる魔法を習いに来た身ですけど、貴方より強いからまったく!平気ですのよ」
ちょっとちょっと、ベルティルデ!
売り言葉に買い言葉、ヒートアップしないでってば。
と、止めるヒマもなく、ウルリッヒとアルの間をすり抜けてベルティルデは穴の中に入った。
「ベル!」
ウルリッヒが声を上げる。しかし、ベルティルデはそのまま奥へと進んでゆく。
入口は身を屈めないと入れないほどの高さだが、中は十分な高さがあるようだ。
「わたくしが、さっさと中を調べてきますわ。その虚言者にこれ以上、足止めされるのは困りますもの」
「きょ、虚言者じゃありません!」
グレタが顔を真っ赤にして叫び、ウルリッヒとアルを押しのけ、穴へ入った。そしてベルティルデを追いかけ、そのまま追い越す。
「この穴は、私が見つけたんですもの!横取りは止めていただきたいわ!」
「横取り?!貴方、本当に失礼ね!わたくしがそんな低次元なことをする訳がありませんわ!」
呆気にとられているうちに、二人はケンカしながらズンズンと奥へと消えて行った―――。




