第32章(1) 自分でみつけろよ
食事も一段落し、僕は先に2階の自分の部屋へと戻ろうとした。
階段を上がると、アレクシスが後ろをついてきていた。相変わらず、足音はしない。
2階の部屋の前まできた時、アレクシスは思い出したように言った。
「そう言えば私に、二度、間違いをおかした、と言ったな?」
僕は答えずに、振り返る。
「あと一度はいつだ?」
黒い瞳をまっすぐに僕に向けているアレクシス。
あと一度。
僕はアレクシスを一瞥し、部屋の取っ手に手をかけた。
背中越しに彼の視線を感じる。
僕はカチャリと扉を開けながら
「さてね。自分でみつけろよ」
それだけ言って、笑いながら部屋の扉を閉めた。
――――二度、間違いをおかした。
『悪魔は予言を外すのか?』
自分の部屋に戻り、僕は白い長衣を脱ぐ。
長衣の下に隠れていた金細工のペンダントが露わになり、その冷たい表面の意匠に指を這わせる。
二度目の間違いは、ヴォルフガングだった。
一度目は……
僕は目を閉じた。
光の中の回廊がよみがえる。
初めてアレクシスに出会った時だ。
落ち葉が舞う、白い回廊。
その時、彼は僕を
『金髪の小僧』
と呼んだ。
女の僕を、『小僧』と。
アレクシス・フォン・リンゲルハイム。
宮廷から来た調査官。
よりにもよって、このタイミングで……
僕は、ずっと机にしまわれている手紙を取り出した。
2歳違いの妹からの最後の手紙。
『今ここにいるのに、僕もこの世界を見ないふりをするのは、もう嫌なんだよ!』
自分の言葉を思い出しながら、僕は机の上に手紙を広げた。
父が亡くなってから、毎日世界が壊れていくと、妹は聖堂を訪れては泣いていた。
美しい瞳のユーディト。
僕は手をこまねいて、何もできなかった。
一体、宮廷で何が起こっているのか。
宮廷からの調査。その本当の目的は何なのか。
君が何者であったとしても、僕は突き止めなければならない。
星の意匠がついたペンダントを、僕は握りしめた。




