第31章(2) 二度目の間違い
「――――あの笛の音は……」
斜め向かいに座ったヴォルフガングが、ぽつりとつぶやく。せっかく作った料理にも口をつけず。
「私にも確かに聞こえた」
そう同意すると、
「だろっ!? 嘘じゃなかっただろ!?」
急に元気になって、身を乗り出して言う。
私は一つの推察を口にした。
「あの笛は、一味の引き揚げの合図になっているのかもしれぬな」
あの後、修道士が総出で捜索したが、人はおろか手がかりも見つからなかった。
「――――やっぱり! 俺もそう思ってたんだ!」
私の言葉に対して、
「奇遇だな――」
と、言いながら、ヴォルフガングはどかっと椅子に座りなおした。
そして手にした自作のリゾットを口に運ぶ。
そういうことにしておくか……
料理の腕といい、今夜の大立ち回りといい、なかなか侮れない男かもしれない。
最初にヴォルフガングを見たのは、修道院の正門の傍だった。
修道院の敷地にいる人の頭ばかりを、目で追っている。そんな彼は、遠目からでも目についた。
一緒にいた修道士は、今思えばコンラート。
「ヴォルフガング様! 工房にもいらっしゃいません」
――――誰が?
あれは、一番効率的な方法だったのだ。
剃髪した修道士ばかりの中。
『金髪の小僧』を探すには。
今更ながらに気が付いた。
「どちらにしろ、これで調査は終わりだな! さっさと宮廷に帰れよ」
ヴォルフガングが晴れ晴れとした笑顔で言う。
「ああ、その件だが……」
そう言いかけると、エリアスもこちらに関心を向けた。
「連続死事件の調査はついでで、本来の目的はここでの文献研究だ」
「はぁ!?」
「はぁ!?」
エリアスとヴォルフガングの声が重なった。
「まだいるのかよ!?」
ヴォルフガングはこの世の終わりのような顔になる。
「この料理は、なかなか美味い」
私はそう言って、ヴォルフガングににっこりと笑った。
「笑顔がムカつくヤツだな!」
ヴォルフガングは鼻をならして、そっぽを向く。
仕方あるまい。密命はこれからなのだから――――
◇◆◇
食事を終えたエリアスが2階へと上がるので、私はその後を追う。
エリアスは、私が二度間違いをおかしたと言った。
一度目はヴォルフガングだった。
では、エリアスの言う二度目は何だ?
書庫での会話が思い出された。
『僕たちを取り囲む、鳥籠みたいな天球がその軸を中心に回ってるってこと?』
『……さぁな』
私はエリアスの問いにそう答えた。
あの時……
悪魔が私の傍にいた。
耳元で囁く甘い声。
それは神の世界を裏切る、悪魔の囁き――――
だが、私はまだ過ちをおかしてはいないつもりだ。




