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第30章 青い業火

 俺がボドキンの射手を取り押さえたところに、漆黒の悪魔が駆け寄ってきた。


 おくれて松明を掲げた修道士たちもやって来た。


 修道士全員、漆黒の悪魔に取り込まれたと思っていたが、どうやら様子が違ったようだ。



 会話も部分的でよく聞こえなかったが、紛れもなく取り押さえたヤツは現行犯だ。



「事件は全てお見通しだ! 犯人は取り押さえたぞ!」


 とりあえずそう言っておけばいいだろう。



 悪魔は、取り押さえられたヤツのマントの留め具を確認して、言った。


「葉薊《はあざみ》のブローチの持ち主か」


 そいつのマントは身なりに不釣り合いな、いかにも急ごしらえな紐で結ばれていた。



「さぁ、立てよ!」


 俺はそいつを立たせ、腕を掴み歩かせる。


 こんな大事件は、俺がここに来て以来初めてだ。



 チラリと祭壇の方に目をやると、血で染まった工房長は、エリアスの腕の中でこと切れていた。


 エリアスが工房長を抱きしめ、涙を流している。



 まただ……


 そんなエリアスの姿を捉え、俺は歯噛みする。



 射手は、腕を掴まれ俺の前を歩かされている。


 ヤツの目が、その様子を捉えた、その時だ。


 掴んだ腕と反対の手が、マントの中から何かを取り出す。



 革袋――――?



 とっさに身構えた、次の瞬間。



 灯った祭壇の蝋燭に向けて、そいつは大きく腕を振りかざした。


 反撃じゃない……!

 

「何!?」



 不意をつかれたわずかな瞬間。


 ヤツは、革袋の中身を豪快にまき散らした。



 革袋の中身がはじけ、あふれ出た粉末が虚空へと飛び散り、容赦なく辺り一面を覆う。


 眼前を黄金が舞う。


 キラキラと。


 蝋燭の炎を反射して。


 まばゆいばかりにキラキラと――――


 

 その粒子が蝋燭の炎に触れた瞬間。



 ボッ……!



 青い――――



 青紫の炎が弾ける。



 な、なんてことだ……!


 鬼火が……!!



 粒から粒へと燃え移り、青紫の炎が爆ぜる。



 悪魔の召喚……



 俺の鼓動が速くなる。


 

 エ……エリアス……!



 咄嗟に祭壇の傍にいたエリアスを、俺の目は探す。



 あたりを青紫の鬼火が埋め尽くす。



「危ない! 離れるんだ!!」


 漆黒の悪魔に強い力で引き戻された瞬間、取り押さえたヤツが、俺の手から逃れる。


 ヤツはそのまま、視界のきかない炎の中へ身を躍らせた。



「毒だ!」


 そう叫ぶと、悪魔はエリアスのいる方向に駆けていた。



 工房長の亡骸を腕に抱き、降ってくる鬼火の中、茫然とするエリアス。



「うおぉぉ……っ!」



 俺は、一気に青紫の鬼火を踏み越え、エリアスに駆け寄る。



 そして、工房長を離さないエリアスを無理矢理抱え、炎から引きずり出す。悪魔も工房長を引きずって、炎から逃れた。


 空中で爆ぜた炎は、床のいたるところに落ち、鬼火から白い煙が立ち上る。



「毒を発する煙だ。足を踏み入れるな!」


 男を追おうとしていた他の修道士たちも、慌てて煙から逃れる。


 すぐに、白い煙は辺りに立ち込め、視界を奪う。



 そして辺り一面を、ニンニクの匂いが覆う。



 煙の中、行き場を失った人影が、もがきながら倒れるのが見えた。


 その時だ。



 フィ――――――



「悪魔の笛の音だ!!」


 俺は辺りを見回すが、それらしい姿はどこにも見えない。



 誰も踏み込めない、毒を発する禍々しい煙の中、悪魔の笛だけが響き渡る。


 



 ――――そして、しばらく経ち、煙が完全に消えた後。


 残されたのは、工房長と、名も知らぬヤツの遺体だけだった。



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