第29章 あやまたない予言
暗闇の中から、突然ヴォルフガングの声が聞こえた。
「殴れるヤツなら、怖くないと言っただろ!」
僕は声のした方、暗闇に目を凝らす。修道士たちも、ヴォルフガングの声を聞き、声の方向へ松明を向けた。
すると松明の明かりが、その場の光景を照らしだす。
バキィッ……ッ!
今まさに、ヴォルフガングが弓を持った射手を殴り倒したところだった。
あのもう一つの気配は、ヴォルフガングだったのか……。
暗闇の射手が、ヴォルフガングに取り押さえられるのを見て、僕は安堵の息をついた。
しかし、アレクシスは苦々しい顔で僕を振り返る。
「悪魔なら、あの夜の望みを聞き届けられたかもしれぬな」
――――あの夜。
アレクシスの部屋の扉を叩き、僕は言った。
『君はそいつを止められるか?』
それは、もうこれ以上誰かを失いたくないという祈りだった。
アレクシスの目線の先。
僕の腕の中。工房長に目をやると、彼はすでにこと切れていた。
「こ……工房長……」
何もできず、失われていく温かさにあらがうように、僕は工房長を抱きしめた。
大きな手。
小さな僕の手を取り、羽根ペンを一緒に削ってくれた。工房長の職人の手を、握りしめる。
視界がゆがみ、目の前の景色が輪郭を失う。
「くっ……っ」
僕は唇を噛んだ。
皮肉にも、結果を見れば、
『君はそいつを止められるか?』
その言葉どおりだ。
もう不審死も偽装も続かないだろう。
だが、この男だけは、僕の言った言葉の真の意味を、正確に理解していたのだ。
どこまで人の心に滑り込むのか……
だから……
だから、この男が、人間であろうが、悪魔であろうが構わない。
この男の言葉に心を許したい……
不覚にも、そう思いそうになった自分がいた。




