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第28章 災いは汝に及ばず

 この修道院は、悪魔の巣窟《そうくつ》だったんだ。


 絶望しながら俺は、柱の陰に身を潜めて事情を窺った。


 だが、何か様子がおかしい……


 跪《ひざまず》かせた工房長を修道士たちが取り囲み、今から悪魔と契約する儀式が始まるかと思ったら……


 堅物管理長、グンターによる取り調べが始まった。


 会話の全ては聞こえないが、途切れ途切れに単語は聞き取れる。


 メモ?

 銀貨?

 ペーター?

 ティーロ?

 殺し??



 何の話をしているんだ?


 

 えっ!?


 待てよ……



 殺し――――???



 降って湧いた物騒な単語。


 俺は会話を聞くために、さらに前の柱へと移動しようとした。


 その時、反対側の前方の柱に、気配を消して隠れている人影を発見する。


 暗闇に紛れはっきりとは見えないが、ぼやけたシルエットが、グンターの取り調べの様子を窺っていた。


 そして、そいつの手には弓。


 しかも今にも放たんと、矢をつがえている。


 工房長が、



「あのお方……葉薊《はあざみ》の蝋封の……」



 と、口にした瞬間。


 そいつは、つがえた矢を容赦なく放った。



 ドスッ……!



 工房長の体が一瞬のけぞって、倒れる。



 な……んて……ことだ!



 現実とは思えない光景に、俺はあっけにとられる。


 一瞬後(のち)、皆が身をかがめ、その場を離れようとした。


 その直後。


 とんでもない光景を目にする。


 工房長がのけぞった後、前のめりに倒れようとしたところに、何かが横切る。



 白い。


 白い長衣。


 金色の髪。



 エリアスが……


 あろうことか、エリアスが、倒れゆく工房長へと走り寄り、その身を滑り込ませ、体を支えた。


 俺の頭は混乱の極致だが、すぐに、きりっと弓を引く音を捉える。


 見ると先程の射手は、次の矢をつがえている。


 昨日見た、ボドキンの射手《ヤツ》……!


 エリアスごと射殺《いころ》す気だ!!



 反射的に足が駆け出す。


 相手との距離は10歩もない。


 俺は大きく3歩で相手との距離を詰め、標的を捉える。


 相手は気配を消した俺に全く気付いていない。


 そして残る2歩まで来た時、祭壇の方で聞き覚えのある声が響く。


 一瞬相手が怯み、突然現れた俺を認め、振り返る。


 が、遅い――――!



「殴れるヤツなら、怖くないと言っただろ!」


 相手は、咄嗟に俺の蹴りを警戒してガードに入る。


 お構いなしに、駆けてきた勢いを利用して右手のストレートで殴り倒す。



 バキィッ……ッ!



「け…蹴り…じゃ…ない……」


 当たり前だ!


 射手は二、三歩ふらついたかと思うと、そのまま前方に膝から崩れ落ちる。



「殴れるヤツって言っただろ」



 そして、倒れたところを、後ろ手にして取り押さえた。


「悪魔じゃなく、人間で残念だったな!」






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