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第26章 ヴォルフガング、最後の良心になる

 迷える子羊の俺は、救いを求めて、ふらふらと聖堂へ来た。


 悪魔どもから逃げおおせる場所は、もうここしか思いつかなかった。


「哀れな子羊を、どうかお救いください」


 心の中でそう唱えながら、修道士たちが通常使う回廊を通り、聖堂の扉をくぐる。


 すると、先客がいた!!


 祭壇に立てられた蝋燭のすぐ近く。動く人影がある。


 俺はとっさに気配を消し、近くの柱の陰に隠れた。


 そこから様子をうかがうと、薄暗い蝋燭に照らされてぼんやりと顔が見える。


 あれは、工房長のウドではないだろうか?


 男は懐から何かを取り出し、蝋燭の火で文字を読んでいた。


 羊皮紙?


 俺はそのまま柱の陰で様子を窺う。


 すると、読み終えたのか、男は祭壇の蝋燭の火にそれをかざした。


 暗闇の中、蝋燭の揺れる炎のあかりだけが、ウドと羊皮紙を照らしだしている。


 乾燥した羊皮紙には、すぐに火がつき――――



 ぼっ。



 炎が揺らめき、俺は言葉を失った。


 


 青い――――



 青紫の炎!


 


 さっき見た鬼火。




 俺は両手で顔を覆った。



 これは、エリアスが魂を抜かれたように見つめていた鬼火じゃないか。


 悪魔が――こんなところにまで……


 

 俺は瞳を閉じる。


 俺に、もう逃げ場は――――ない。


 絶望の中、一昨日覚えたばかりの詩篇が口をついて出た。


「汝、恐るることなし」


 一昨日の夜、ここでエリアスが唱えていた聖句。


「夜の恐怖も、昼襲い来る矢も、暗闇を徘徊する災いも、襲撃も、真昼の悪魔も」


 今の場合はどれに当たるんだ? ちょっと疑問に思ったが、先を続ける。


「千人が汝の傍らに、万人が汝の右手に倒れようとも…………」


 めちゃくちゃ倒れてるじゃないか……倒れ過ぎじゃね?


 最後の一人になろうとも、俺は――――


 

 その時だった。


「いたぞ! ここだ! 聖堂だ!!」


 松明を手に、修道士がたいそうな勢いで、聖堂に入ってきた。


 はっと振り向いたウドの手から、炎をあげる羊皮紙がこぼれ落ちる。


「あっ!」


 ウドは慌てて落ちた火を、修道士から隠そうとした。


 だが、修道士はその勢いで祭壇まで駆けていき、足で床に落ちた青紫の火を踏み消した。


「な、何を!!」


 修道士の持つ松明に照らし出されたウドは、慌てふためいていた。


 そして、扉の外でガヤガヤと数人の声が聞こえ、さらに修道士たちが入ってきた。


 するとその中には、エリアスと悪魔もいた。


 俺のいる、祭壇の反対側には明かりがなく、向こうから見えないだろうが、さっと柱の陰に身を隠す。


 俺は、今起こっていることを把握しかねて、必死で考えを巡らせる。


 もしや……


 これは……


 これは……!


 エリアスだけでなく、修道院全てが悪魔の手に落ちたということなのか?


 息を漏らさぬように口を手で覆う。


 俺はまだ聖句を最後まで唱えていない。


 数人の修道士の松明により、聖堂の中は工房長を中心に明るく照らされている。


 こんな数の悪魔に効くのだろうか? 一か八かで最後の聖句を唱えようとしたとき、その一団を割って管理長のグンターが進み出る。


 あの堅物の管理長までも、取り込まれたということか。


『修道院の貴重な良心』まで取り込まれたとなると、残るは『修道院の最後の良心』の俺しかいないということか……


 そして、堅物管理長はウドに取引を持ち掛けた。


 悪魔の取引を――――



「原料のすり替えは露見しています。話を聞かせてください」



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