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第19章(2) 逃避行 

 どうやら、グンターが調査官を呼びに行った間に、修道士たちが盗難を聞きつけて騒ぎになったようだ。


 


 そのざわめきの中に、黒い調査官とエリアスもいた。


 騒がしくなったので、隣の書庫から出てきたのだろう。


 グンターが修道士たちの人混みをかき分けて、調査官のそばに行く。


「お聞きになられましたか? 大変なことになりました」


 黒い調査官は、口元に手をやりながら顔色一つ変えずグンターの報告を聞いていた。


 報告が終わってもしばらく、ヤツは体勢を崩さないまま、じっと何かを考えているようだった。


 やがて、何か天啓を得たのか、一瞬、黒い瞳がさらに深く揺らめいたかと思うと、


 静かに顔をあげ


 

 悪魔の神託を宣《のたま》った。




「もう一人、死人がでる」




 俺はその言葉を聞きながら、目を閉じた。



 何か不吉なもの――――



 やはり……



 

 それはおまえだったか……



   




「あ……悪魔だ……黒い予言の悪魔だ!」




 そう叫んだのは、古参の修道士だった。



 そして、漆黒の髪の調査官に



「呪われた予言など必要ない! 即刻ここから出ていけ!」


 と恫喝しながら詰め寄った。


「ちょっと待ってくれ!」


 エリアスが声を上げる。


「黒い予言の悪魔を擁護するのか!?」


 古参の修道士に同調した他の修道士からも声があがる。


 修道士たちは、エリアスと調査官に詰め寄り、揉み合いになり始めた。


 何てことだ!


 目の前が暗くなる。


 俺は慌てて修道士たちをかき分け、エリアスの元へと急ぐ。


 その間にも


「悪魔を追い出せ!」

「呪われた者を追放しろ!」


 修道士たちが口々に、俺の言いたいセリフを吐いている。


 悪魔は心底どうでもいいが、エリアスをここから連れ出さなければ……!


 修道士たちとエリアスたちの間に入って、グンターが彼等を宥めている。


 その隙に俺は、エリアスの手首を掴み、入ってきた扉と反対の扉に向かって強引に連れ出す。


「ちょっと、待てよ! ヴォルフガング!」


 エリアスが抗議の声を上げるが、お構いなしに歩みを進める。


「うるさい!」

「ちょっと話を聞けよ!」

「いい加減にしろ! やっぱりヤツは呪われた悪魔だったんだ。もうヤツに関わるな!!」



 俺は部屋を出て、石の階段を駆け降りた。


 グンターが修道士たちを抑えているのか、今のところ追ってくる気配はない。


 人気《ひとけ》がなくなったところで、振り向く。



 振り向いたところで…………


 俺は、内臓が口から全部飛び出るかと思った。



 俺の後ろにいたのは――――――




 漆黒の悪魔――――!!!!!!




 なぜ??


 

 慌てて、手首を掴んでいる自分の手を見る。




 俺は、しっかりと悪魔の手首を握っていた。



 すぐに理解した。



 エリアスの手首を掴んだ、あの瞬間だ!




「エリアス……ッ!!」




 すぐ後ろにいたエリアスの名を叫ぶ。


 こいつの得意技。


 すり抜け技。


 あの一瞬で俺の手をすり抜け、悪魔の手を取らせたのだ!



 


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