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第19章(1) 悪魔の化身、マリアちゃん

 ちょっと悪魔にかまけていた間に、よくわからないことになっていた。


 三人組に襲われた女の子を助けたまでは良かった。


 そこから、マリアと名乗る子の猛プッシュが始まった。


 そりゃ、もう

 プッシュで

 プッシュで……


 その……押し付けてくる。


 今日も偶然会えたと、熱い瞳で見つめられた。


 うるうる――と。


 そして、


 俺はわかってしまった。


 俺は……


 俺はきっと……


 きっと……


 

 悪魔に狙われている!!




 普通に考えて、あんな可愛い胸の大きな女の子が……


 俺に猛プッシュ……


 

 プッシュする訳ないだろ!?


 

 俺を狙ってる悪魔が、とうとう本気を出して、女の子に化けてやって来たんだ。



 なぜかって?


 俺を堕落させて、魂を奪うために!!



 瞳をじっと見つめられた時なんか、魂を奪われそうになったぜ。


 俺は、焦点をずらして、悪魔の術をかいくぐったが……



 自分の置かれたのっぴきならない状況に気づいてしまい、慌ててこの宿坊に帰ってきた。


 完全に悪魔にロックオンされてしまった俺に未来はあるのか!?



 微かに震える手で、短刀を取り出す。



「ヴォルフガングさま? 何をなさっておいでです?」


 夕食の支度をしていたコンラートが背後から俺に声をかけた。


「大丈夫。ちょっと料理を……」


 通常夕食は火を通さない冷たい食事が多いが、今度こそ悪魔を寄せつけないために、ア(・)レ(・)で守りを徹底するのだ。




 ゴトゴトと鍋が煮立って、芳しい香りが宿坊に充満した頃、トントンと、扉をノックする音がした。


 こんな時間に誰だ?


 日が傾いた黄昏時。


 太陽が沈み、闇が忍び込んでくるこの時間。


 魔物や悪魔、人ならざる者が動き出し、人間界へ侵入してくる時間だ。


 

 俺は短刀に手をかけ、警戒した。


 しかし――――



「はい。どなたでしょう?」



 俺の警戒をよそに、コンラートはあっさりと扉を開けた。


 俺の口が◇←こんな形になる。


 コンラートのおっさん! 悪魔が入ってきたらどうするんだ!?


 俺が声を発するより早く、来訪者の言葉が届く。


「管理長のグンターです。調査官殿はおられるでしょうか?」


 このキビキビした語り口は、たしかに管理長のグンターに違いない。


 ただ、調査官?


 あの漆黒の悪魔のことか……


 あいつに何の用が?


 身構える俺より先に


「何かあったのですか?」


 コンラートはするっと尋ねた。


 このおっさん!


 長年エリアスの世話係なんて物好きなことをやってるだけあって、ちょっとやそっとでは動じない。


 まあ、そうでないと、あのエリアスのお守りなんてやってられないのかも知れないが。


「大変なことが起こりました。写本と銀貨が盗まれたのです」


「何だって!?」


 俺は、思わず動じて、でかい声で反応してしまった。


 どうしてこう、次から次へと厄介ごとが起こるんだ。

 

 やはり、何か不吉なものがいるとしか考えられない。


 あの漆黒の……


 黒い予言の悪魔が来てからというもの。


「エリアスと調査官は書庫に行くと言っていた。それにしても、一体どこで盗まれたんです?」


 俺は、一応……


 まさかエリアスがやってねーだろうな!?


 という気持ちを込めて聞いた。


「宝物庫の中です。工房で制作中の『アラテア』を保管していたのですが……」


 宝物庫の中。書庫とは反対の方角だ。


 少しほっとした俺は、鍋料理を中断し、グンターと一緒に二人がいるはずの書庫へと向かった。


 道すがら聞いた経緯はこうだ。


 今日の作業を終え、ウド工房長が宝物庫に作業途中のページを収納に行った。

 

 すると鍵が開いていて、完成していたページの束と調査官から預かった銀貨がそっくりなくなっていたらしい。


 鍵が壊された形跡もなかったとか。


 グンターの話を聞いていると、すぐに書庫のある建物に着いた。


 書庫へは、まず写本工房を通らねばならない。


 だが、俺たちが到着した時、工房はただならぬ空気に包まれていた。



挿絵(By みてみん) 

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