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第17章(2) マリア再び

「ヴォルフガング様! 偶然ね! お会いできて嬉しい!」



 巡礼者たちが休む客舎前。


 うるうると瞳を潤ませ、両手を胸の前に組んで喜びを表すマリア。


 偶然……?


 私の知っている偶然と、違う「偶然」があるのかもしれない……


「運命なのかしら?」


 などと、よく通る声で話している。



 エリアスはというと、マリアの両手の下のどんっと鎮座した胸に、また釘付けだ。



「昨日は大丈夫でしたか?」


 ヴォルフガングは、無難な言葉を返している。


 だが、大きな胸を寄せるように手を合わせているマリア。


 彼女に上目遣いで見つめられ、今日もまた視線が定まっていない。


「私に聞きたいことって、何かしら?」


 ヴォルフガングを見つめたまま、マリアが切り出した。


 私が単刀直入に聞く。


「ルーカスという絵師を知っているか?」


「ルーカス?」


「誰それ?」と、立てた人差し指を顎に当て首をかしげた。


 くりくりとしたブラウンの瞳と赤い口元。


 計算された顔の角度に感心しながら、私は続けた。


「昨日も付けていた、そのチョーカーを贈った相手だ」


 エリアスもヴォルフガングも


「えっ!?」


 と声を上げた。


「チョーカーなんて昨日つけてた!?」


 驚いたようにエリアスが聞く。


 お前たち二人……

 

 胸にしか意識がいってなかったから、見えてなかったんだろうよ。


 と、もう少しで出そうな言葉を飲み込んだ。


「ああ! これをくれたルッくんね!」


 マリアは合点がいったというようにチョーカーを指差したが、


 ルッくん……


 怪訝な気持ちが表情に出てしまった。


「毎朝うちが商品を持って来るんだけど、いつも門からこっちをじーっと見てるの。父さんの国の言葉で、見るって『ルック』って言うんだって」


 そう言ってマリアは赤い口元に笑みを浮かべた。


「だからルッくん」


 カンが鋭いのか、私の疑問を的確に読んで答えた。


「それは、その……秘密の恋ってやつ?」


 エリアスが少し身を乗り出して、小声で聞く。


「誰にもいわないよ」などと言いながら、降ってわいた恋話に興味津々といった様子だ。


「まさか!」


 マリアは、ないないといった様子で手を振りながら答える。


「私ってそこそこ可愛いし、スタイルもいいでしょ? だから私のこと見てる男性は他にもたくさんいるの!」


「へぇ――」


 それはそれで、感心したように相槌を入れるエリアス。


「でも、ある時、ルッくんが私を呼び止めて、これをくれたの。結構値の張るものだったから、びっくりしちゃった」


 マリアはチョーカーと首の隙間に指をいれて、持ち上げてみせた。


 少し幅のある革紐に、金属で作られた五つの花弁を持つ花の細工が通されている。


 そして、花の中央には赤いガーネットがはめ込まれていた。


 確かに値は張るだろう。



「それは最近?」


 私の問いに


「うーん……2週間くらい前かな」


 少し考えてから答えた。


 ペーターやティーロの事件の少し後か。


「でも、誤解しないでほしいの!」


 そう言うと、マリアは大きな瞳でヴォルフガングを見ながら、そっとヤツの服の裾を引っ張る。


「私って、とてももてちゃうから、贈り物はたくさんもらうけど、心に決めた人がいるの」


 そう言って、じっとヴォルフガングの瞳を見つめる。



 ヴォルフガングのヘーゼル色の瞳が点になる。焦点が合っていない。


 


 私はヴォルフガングがどちらに転ぶか賭けたい気分に駆られながら、話を進める。


「そのルーカスが一昨日亡くなった」


「えっ!?」


 マリアは驚いて私を見た。


「そんな……まだ若いのに。お気の毒に」


 気の毒がったが、それは個人的な感情というよりは、一般的な感想に聞こえた。


「何か他に話してたことはあるか?」


「うーん。ほとんど見る専門で、特に話さなかったけど、『こんな高価なもの、もらってもいいの?』って聞いたら、『近々もっとまとまったお金が入る』って言ってたかな」


 見る専門……


 ルッくんと名付けられた男に同情していいのか、自業自得だと突き放していいのか複雑な気分だ。


「それくらいかな……」


 そう言ってから、私の方を向いて答えていたマリアは、くるりと向きなおった。


「……で? 他に聞きたいことは?」


 ヴォルフガングに何か聞いて欲しそうに、顔を覗き込みながら言う。


 あらかたは聞けた。こちらはもういいから好きにしてくれ。


 そう思っていたところ、少し間をおいて、今まで静かにしていたエリアスの手が。


 すーっと上がる。


「なんだ? 他にあるのか?」


 何か聞き忘れていたことがあったかと思い返していると……




「何を食べたら、そんなにデカくなるんだ?」




 胸をガン見しながら、真剣な顔で質問した。


 ――――なっ!


 何てことを聞くんだ!!


 これだから、修道院育ちは恐ろしい……


 見る専門のルッくんより軽蔑するぞ。


 エリアス。


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