↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/35

第16章(1) イモ虫!?

「2番目に亡くなったティーロは、主に人物画を描く絵師でした」


 朝のミサが終わり、早々と工房に顔を出したベルンハルトから聞き取りをする。

 

 と言っても、僕はアレクシスが聞き取るのを、傍で見ているだけなんだけどね。


「絵師にも種類があるのか?」


 僕の方を向いて聞くので、彼らの仕事について補足する。

 

「ルーカスは主に金や銀で装飾をする装飾師で、ティーロは一番おいしいところを描く主絵師だったんだ」


 主絵師はマエストロって呼ばれ、僕の憧れのポジション。


 神話の神々や聖獣を、劇的にかっこよく描けたらどんなにいいかって思うよ。


 いつかは、僕も……


 と思って、密かにペガサスの練習をしたり、絵の具の知識を教えてもらったりしている。


 なぜか、僕が絵の話をしたり、練習をしたりすると、邪魔されちゃうんだけどね。



「ルーカスは修道士ではなかったようだが」


 そう、修道士になると、みんな頭のてっぺんを剃っちゃうんだけど、ルーカスは剃髪してなかった。


「はい。装飾の腕を見込まれて、若いころからずっと住み込みで働いていたそうです。身寄りもないからここに埋葬されたみたいですけど」


 折り目正しく答えるベルンハルトの言葉を聞きながら、ルーカスの作品を思い出す。


 本当に彼の描く装飾文様は緻密で美しかった。緻密さのない僕には百年たっても描けそうにない。


 英雄や神々なら、頑張れば描けそうな気がするんだけどね。


 僕はふとルーカスの机を見やった。


 あれ?


 さっき僕たちが見ていた『アラテア』がない。


 僕は辺りを見回したが、今のところ、この部屋には僕とアレクシス、ベルンハルトしか出入りしていない。


 そつのないベルンハルトが片づけたのか?


 

「新入りのペーターは雑用係でした」


 ベルンハルトが、最初に亡くなったペーターについても説明してくれた。


 ベルンハルトはよく気が利く優等生なのだ。


「なんでもさぁ、ペーターはオーカーの袋の中で逆さになっていたとか。袋からこんな風に足だけ出してたってさ。ほら、ルーカスの見つかった例の倉庫で」


 もぐもぐ何かを食べながらやって来て、いきなり会話に加わったフーゴが、両手を上に広げた格好で言った。


 優等生とは程遠い、いつもいい加減そうなフーゴなのに、こんなに早く工房に来るのか。


 ちょっとびっくりした。


 朝はギリギリに工房に来る僕の知らない世界を覗き見て、なんだか軽くショックをうける。


「オーカーというのは?」


 アレクシスが、またこちらを見るので、


「さっき言った、ただ同然の茶色の土だよ」


 ちょっと優秀な助手みたいに解説を入れてやる。


「慣れない作業で誤って埋まってしまい、出られなくなったって言われてます」

 

 と、ベルンハルト。


「ティーロは鐘楼から転落と聞いたが」


「ティーロは鐘楼の上から飛び降りたんです。絵の具の袋を抱えて」


「おいら見ちまった。落ちてきた時、中の粉が飛び散って、黄色い花が咲いたみたいだったよ」


 フーゴが付け加えたけど、目撃してたとは知らなかった。


「その絵の具は?」


「さぁ? あっという間に飛んで行っちまったよ。だから残ってないけど、そばに金の絵の具を入れる革袋が落ちてたんだってさ」


 なんでも聞きたがる僕だけど、仲間が亡くなった話はあえてしなかった。だから知らない話だった。


 傍らに落ちてた金の絵の具を入れる革袋って……




「では、イモ虫に思い当たることは?」


 はっ!?


「イモ虫?」

「イモ虫?」


 ベルンハルトとフーゴが同時に声を上げる。


 僕はとんでもなく嫌な予感がした。


「エンジ虫は、赤い顔料に使うと聞いたが、イモ虫は何かに使うのか?」


「なっ! な、な、何でそれをっ!?」

 

「メモの裏に確か……」


「そ……そ、そ、そんなもの使わないよ!!」


 慌てて僕が否定する。


 こ、こいつ! 見てたんだ!!!


 あの書付の裏。気が付いてすぐに取り返し、うまく隠したつもりなのに! 見られてた!!!!


 しかも、イモ虫って!!!


 イモ……


 芋――――――!!


 馬だよ! 馬!!!


 しかも、ペガサス……


 なんだかちょっと涙が出てきそうだ。


 これは絶対に言えないし、僕が描いたってばれちゃいけない……だから宿坊にもこっそり持ち帰ったのに……


「どうした? 顔が真っ赤だぞ」


 アレクシスが僕を見るが、最大級の屈辱を受けて、何も言い返せないのが悔しい……


 僕が涙目になってるところに、背中からさらに矢が飛んでくる。


「イモ虫って言えば、エリア……」

「あ――っ! 飛び降りた原因ってなんだっけ?」


 僕はフーゴの言葉をさえぎって、無理やり話を戻す。


 知ってるよ!


 絵師たちが僕の馬を芋虫って言ってるのは!!!



 ペガサスだよ――っ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。