第11章(2) 超高級な虫!?
見覚えがある……
私はそこで言葉を切った。
拾い物。
というより、とんだ代物かもしれぬ――――
「預かっておこう」
ブローチは、そのままベルトに取り付けた革袋にしまった。
◇◆◇
その後、ヴォルフガングはそそくさと、建物を出て行ってしまった。
いいのか? とエリアスに聞くと、「あのまましゃべらせると朝まで話すよ」とか。
ボドキン考、私にはなかなか面白かったのだが。
ヴォルフガングを見送った後、エリアスは羊皮紙をにらんでいた。
「ひどい悪筆だ……」
羊皮紙を手にし、エリアスはめくりながら眉間にしわを寄せている。
「何が書いてあるかさっぱりだよ」
諦めたのか、あきれたように無造作に投げてよこす。
よこされた羊皮紙に、私も目を通す。
確かに……。
何か数字が書かれてはいる。
それ以外は、ミミズの這うような癖がありすぎる字。
これは判読に手間と時間がかかりそうだ。
「写本師でも読めないか」
何気なく漏らした言葉だが、どうやら写本師としてのプライドを傷つけたらしい。
エリアスは私から羊皮紙を取り返す。
そしてさらに深く眉間にしわを寄せながら、羊皮紙をにらんでいた。
私は先ほど受け取ったブローチをそっと出してみる。
葉薊。
ラテン名、アカンサス。古代ギリシャの柱の彫刻や、写本の装飾にモチーフとして使われてきた植物。
ヴォルフガングではないが、このような植物をモチーフにしたブローチは北の方……
特にライン川あたりで好まれる。
私は指先でくるくるとそのブローチを回した。
アカンサス。
ギリシャ語で『棘』を意味する。
それは指先に刺さった棘のように、微かに神経を逆なでた。
その時だ。
「わかった!」
エリアスが声をあげた。
「これ、エンジ虫だよ! きっと! エンジ虫!」
「エンジ虫?」
奇妙な単語の出現に疑いの目を向けるが、エリアスはお構いなしに続ける。
「エンジ虫はすり潰すことで、赤色の顔料になるんだ! 横にあるのは数字だね。こっちは読みやすい」
エンジムシ……
虫と言われて、私の脳裏にG……のつく黒い虫が思い浮かび、さらなる疑いの目になる。
「信じてないな? たしかずっと前からこの倉庫にも……エンジ虫が置いてあったはず。ほら、あれだよ!」
エリアスは倉庫の奥へと進み、棚にある『エンジ』と書かれた木箱を取り出す。
蓋を開けると布に包まれた小さな包みが入っていた。
それを開くと数匹の干しブドウのような虫がころりと転がり出た。
「これをすり潰して、顔料にするんだ。エンジ虫の緋色は最高級の色だからね。高すぎてなかなか使えやしないって、絵師は言ってたよ」
「高すぎてとは、どれくらいなのだ?」
全く想像がつかない。なにせ、虫だからな。いくら高価とはいえ、種別でいえば、Gの仲間……
「金くらいかな?」
のんきなエリアスの声が聞こえた。
金くらい……?
この虫が?
絵の顔料は宝石や金、貴重な植物を使用するために、高価だとは聞いたことがある。
だが、まさかこの、何かのフンみたいな虫が、金ほどの価値だとは……
エリアスは、もういいだろ? というふうに、エンジ虫の包みを木箱にしまって、元の棚に戻そうとしていた。
軽いショックを受けながら、エリアスの戻す棚を見る。
「待て」
「え? まだエンジ虫見たいの?」
エンジ虫の箱を再び開けようとするが、それを制した。
「何かある」
エリアスがしまった木箱の上の段。
「何があるんだよ?」
見える――――
あるじゃないか。エリアスには見えないのか?
私は上段の木箱を取り出す。
すると
あった。
その奥には――――




