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第9章 修道士服はたたむのが難しい

「本当にいたんだって!! 悪魔が!」


 アレクシスが気が付かなければ、うっかり忘れるところだったヴォルフガングを回収し、全員が宿坊一階の共同スペースに戻ったのは明け方近く。


「悪魔が何のために笛吹くんだよ!? 演奏会でもするのか?」


 悪魔が来りて笛を吹く――?


 ヴォルフガングの荒唐無稽な話に抗議とツッコミを入れる僕を、コンラートが宥《なだ》めた。


「まぁまぁ、エリアス様。うまくいったのですから……」


 コンラートはいつも絶妙のタイミングで僕やヴォルフガングをフォローする。

 

 怒りたいのは、暗闇で一人足止めしていたコンラートじゃないか? と思うのに。

 

 本人は全く気にもしていない様子だ。恐るべし大人の包容力。


 コンラートは、物心ついた時から僕のそばにいて、ここに預けられる時、修道士となり一緒についてきてくれた。


「コンラートが言うなら仕方ないけど」


 しぶしぶ矛を収めたが、ヴォルフガングは絶対に悪魔がいたと、まだ言ってる。


 いい年した大人が拗ねても可愛くないよ!


 アレクシスはというと、借り物の修道士服を丁寧に畳んでコンラートに渡していた。


 意外と几帳面な男なのかもしれない。


「何かわかったか?」


 僕はアレクシスほど上手く畳めないのを、見ないふりして聞いた。

 

 何度やっても、フードがぴょんと飛び出すのだ。


「いや、まだ何も見えない。もう少し調査がいる」


 まだ、何も見えない――


 と言った。


 何が見えるんだ?


「次はどこを調査する?」


 僕の問いに、


「次はルーカスが発見された部屋だ」


 アレクシスがベルトに短剣を差しながら言う。

 

 僕も慌てて、畳みかけの修道士服をコンラートに渡す。


 ぴょんとフードが飛び出したままなんで、裏返してそっと。


 確かにルーカスが発見された部屋を調べるには、いい時間帯だ。


 追悼ミサで皆が聖堂に集まるため、修道院の建物内には人がいなくなる。


 管理長のグンター様に調査官のおもりを頼まれたんだから、コソコソしなくても……とは思う。


 だが、調査をアレクシスは大っぴらにしたくないようだった。


 確かに証拠隠滅されたら元も子もない。


 僕たちの動きが怪しまれないようコンラートにはミサに出席してもらう。


 ヴォルフガングは……


 夜の聖堂探検を終え戻ってきてから、ちょっとした音にもビビり、すぐに僕のところに飛んでくる。


 どっちが護衛だかわかったもんじゃない。


 ルーカスの発見された部屋に行くと聞くと、この世の終わりのような顔になった。



「いやだ! 絶対に嫌だ!! 絶対に祟られる!!!」


「嫌なら、おとなしく部屋に残ってろよ」


 そう言うのに、一人は嫌だとか言って僕たちの後についてくる。


 なんて難しいお年頃なんだ。


 ついてきたのに部屋に着くと、中には絶対に入ろうとしない。



 そこで僕たちはヴォルフガングを見張りに立て、部屋の中に入った。


 部屋といっても画材や絵の具の原料を置く倉庫だった。


 ルーカスがここで発見されたとき、ちょっとした騒ぎだったようだ。


 僕は書庫にいたので後から聞いたけど。


「グンター様に鍵を借りに来たルーカスが戻ってこないので見に行くと、内側から鍵がかかってたんだって。どこにもいないからもしかしてと、鍵を壊して入ってみると、部屋の一番奥で鍵を握りしめて倒れてたとか」


 おかげで鍵の修理に鍛冶屋が来るまで、こうやって僕たちが出入りできている。


 なぜ内側から鍵を?


 絵師だから出入りしていても不思議はないが、なぜここで?



 わからないことだらけだ。



 倉庫の中は、細長い部屋にところ狭しと絵の具の原料や画材が並べられている。


 誰かが換気をしたのか、窓が開いていた。


 通常、ここへは絵師以外ほとんど足を踏み入れないのに。


 秋の風が窓から吹き込んで、天井に吊るしてある乾燥させた木の実や根っこを揺らす。


 壁に並んだ棚には原料が木箱に入れて納められている。


 ルーカスが発見されたのは部屋のさらに奥だ。

 

 先に歩みを進めていたアレクシスが、天井から吊るされた西洋アカネをかき分けて、その先を窺いながら、


「またついてきたのか? 用心棒」


 背後を見ずに言う。



 え?

 また!?


 僕は慌てて振り返った。



 

 でも、そこにヴォルフガングはいなかった。



挿絵(By みてみん)

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