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第7章(2) 悪魔が来りて笛を吹く?

 俺とコンラートは、入ってきたのとは反対側の出口から地上に出ることにした。

 

 そして南の回廊の入り口で、次の交代を待つ。

 

 そこで足止めをすればいいわけだ。


 南の回廊は、普段修道士たちが聖堂に出入りするのに使われている通路だ。そのため明かりもある。


 辛気臭い地面の下とは大違いだ。


 俺は、コンラートの後について地下から出た。


 陰気な穴ぐらは二度とごめんだ!

 

 やっぱり、空が見える地上はいい。

 今は、モヤと出てきた雲で、月も見えないけどな。


 地上に出た解放感で、軽い足取りで南の回廊へ向かおうとした。


 その時――……



「……ん?」




 今、何か……。



 何かが……動いた気配が……




 闇の中で……


 


 俺は足を止めた。


 気のせいか?


 振り返るべきか?



 俺の額に汗がにじむ。



 振り返って、何かいたらどうするんだよ……



 ゾワッと背筋に怖気がはしる。



 コンラートは?



 はっと、気が付き、前方に目を向ける。

 


 すると、目の前はモヤがかかった闇――――



 コンラートはすでに漆黒の闇と霧に溶け込んで、その姿がなかった。


 慌てて後を追おうとしたが、眼前は霧と闇。


 一寸先も見ることができない。



 な、なんてことだ…………!



 愕然とした俺。


 その時だ。



 俺の耳に



 聞こえた――――……



 空気さえ震える……




 ――――悪魔の笛の音が。



 気のせいなんかじゃなく……


 だらりと、額の汗が落ちた。




 フィ――――……




 はっきりと。




 ぎゃぁぁぁぁ―――っ!!!!


 悪魔だ!



 悪魔が来た!!!



 俺は声にならない悲鳴をあげ、今来た道を猛ダッシュで駆け戻る。

 

 あっちなら、まだ人がいる!!


 あいつらが!


 さっき出てきた階段を探し、真っ暗闇の地下へと駆け下りる。


 辛気臭い!? 誰がそんなこと言ったんだ!?


 そんなこと言ってる場合じゃねぇ!


 そ、そうだ! お、お、お祈り!!


 俺は十字架を握りしめ、魔よけの詩篇を唱える。


 

「な、な、な、汝恐るることなし!」



 そうだ! そうだ、恐れるな!


 上手く口が回らないが、必死に、昔、夢の中で聞いた坊主のお祈りを思い出す。


 だが、夢の中なんで、すべてがおぼろげだ。

 こんなことなら、教会で居眠りせずに真面目に聞いておけば良かった。


 え――っと、


「く…暗闇に徘徊する悪魔も……」


 あと、なんだっけ……


「ま…真昼の悪魔も……」


 だっけ?


 あとはどんな悪魔だ??


 そんなに悪魔いろいろいるのかよ……


 あ――もう!


 出てこない!!!


 もう、どんな悪魔でもいいから、


 まとめて! 悪霊退散!


 悪霊退散! 悪霊退散!! 悪霊退散!!!


 必死に口の中で唱えながら、クリプタを駆ける。


 その時だ。



「――――汝、恐るることなし!」



 ついさっき、地下で修道士たちの呪いの呪文を聞いた隙間。


 そこから、凛とした声が聞こえた。


「夜の恐怖も、昼襲い来る矢も、暗闇を徘徊する災いも」


 悪魔でてこねぇ……


「襲撃も、真昼の悪魔も」


 おお! ここで出てきた! 悪魔……!!


「千人が汝の傍らに、万人が汝の右手に倒れようとも……」


 朗々と響く、月明かりのような聖句。


 俺は地下から見上げた。


 蝋燭のほの暗い炎の下、わずかな光を反射して輝く金髪が見える。



「――――災いは汝に及ばず」



 金色の髪に、エメラルドの瞳。



 エリアス……



 聞き覚えのある声に、俺は足の力が抜けていくのを感じた。




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