↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/66

07. 双子の兄と家族事情



 部屋に差し込む陽光で目が覚めた。

 天蓋から垂れる薄絹が、朝日に透けて金色にきらめいている。

 目に入る情報はやはりキラキラ(物理)していて、昨日と何も変わらない。

 だけど、あれほど鮮烈だった違和感は、今はもう跡形もなく消え去っている。

 いつもと同じ、日常に馴染んだ光景だ。


 ふわふわのベッドの中、ぺったりと寄り添う子供体温に頬が緩んだ。




◇◇◇



「やぁだ! ぼくはルナちゃんと一緒にいるのー!」

「しかしヴェルク、それではルナリアがゆっくり休めないだろう?」


 自室に戻るよう促されたヴェルクは、俺にしがみついたまま、頑として俺と一緒に寝ると言い張った。

 

 ……はて、記憶の中のヴェルクはこんなに俺に懐いていただろうか?

 確かに、普段から年の離れた弟を可愛がってはいたけれども。


「おいチビ、ルナが困ってんだろ」

「だって! ぼくは、ルナちゃんを護る騎士様なんだから!」

「はぁ? なんだそりゃ」


 ……ごっこ遊び、なのか?

 だけど、ぎゅうぎゅう抱きついてくるヴェルクは、やはり真剣そのもの。

 きゅるるんな眼差しに——勝てる気がしない。


「じゃあ……俺の騎士様、一緒に眠ってくれますか?」

「うんっ! ぼくのレディ!」


 にっこり微笑み、いそいそとベッドの中に入ってくる5歳児。

 ……天使かな?


「天使だ——」


 ……ヤバイ、父さんと発想が被りまくってる。



「そいつ、寝相悪いぞ。平気で顔面蹴ってくるからな、気をつけろ」

「アハハ、そう言えばそうだったね」

「騎士様だからそんなことしないもん!」


 笑いながら部屋を出て行く家族を見送り、再びベッドへと身を横たえる。




「……ねぇ、ルナちゃん」

「うん? どうしたの、ヴェルク」


 物思いに耽りそうになる思考を、ヴェルクの声が呼び戻す。

 じぃっと、まるで心の中まで見つめようとするかのような眼差し。


「……ヴェルク?」


 物言いたげに、でも口を開かないヴェルクは、やがてにっこりと微笑んだ。


「ぼくが護るから、大丈夫だからね」


 ちゅっと頬に口づけてくれたから、俺も額へ返す。

 二人でとりとめのない話をしている内に、眠りへと落ちていった。




◇◇◇



 可愛い弟の寝顔を眺めながら、寂しかったのかもな、と思う。


 12歳から王太子付従者になった俺と、15歳から王立学園に通う兄さんは、普段は王都にあるタウンハウスで生活している。

 両親とカルミアがいるにはいるが、辺境を治める両親と四六時中一緒に過ごすことは難しい。

 父さんなんて、出現する魔物のレベルによっては前線に立つしね。

 カルミアは、まぁ……お察しだ。


 ルーチェ辺境伯領地と王都は、馬車で5日の距離。

 こうして領地へと帰ってこられるのは、どうしてもまとまった休みがある時に限定される。

 今回の帰省は、兄さんの春季休暇に合わせた約1ヶ月。

 移動に取られる時間を考えると、領地に滞在できる時間は否応なしに限られてしまう。


 それでも機会を見つけては帰ってきてしまうのは、俺も兄さんも、この辺境の地が大好きだからだ。

 一緒に過ごせる貴重な時間を3日も無駄にしてしまったことが悔やまれる。


 

 この春から王立学園に通うことになる俺は最低あと3年、兄さんは卒業までのあと1年を王都で過ごす。

 領地で過ごす幼いヴェルクからしたら、離れ離れの時間は長く寂しく感じることだろう。


 ちなみに、カルミアは日頃から熱心に王都行きを望んでいるようだが、父さんの許可が下りずに今日までその願いは叶わずにいる。

 父さんに多少子供に甘いところがあるとはいえ、奔放なカルミアを王都に野放しは危険と判断したのだろう。

 王都にサラマンダーを投げ入れるような真似はできない、と呟いていた父さんを思い出す。

 ……英断だ。


 ただ、遂に今回、彼女の悲願は叶うことになる。

 学園入学のために、タウンハウスへと移り住む時がきたのだ。

 王都へ戻る馬車に同乗して移動し、そのままタウンハウスで3年間を一緒に過ごす……


 ……ぶっちゃけ、憂鬱だ。

 ほら、根本的に合わない人間っているじゃない?

 彼女が、まさしくそれ。

 双子なのに、こんなにも似てるのに、何から何まで反りが合わない。

 兄さんとは、そんな事ないんだよ?

 多分、結構仲がいい兄弟だと思う。


 お互いに合わないんだからやり過ごせばいいのに、事あるごとに突っかかってくるんだもん。

 ……何かした記憶もないんだよなぁ。

 そもそも、物理的に一緒にいた時間があまりないんだからさ。


 兄さんは、学園を卒業したら領地に戻ると公言している。

 口にはしないが、次期当主として父の傍で学びたいのだろう。

 父さんも、そんな兄さんが嬉しくて仕方ないんだ。

 ……本人は隠してるつもりっぽいけど、だだ漏れ。

 口にこそしないが——ルーチェの家の者ならば皆、知っている。


 そして俺も、学園を卒業すれば自由の身だ。

 俺の王太子付従者の任期は、王太子が成人するまで。

 これは、ルーチェが王太子付従者を引き受ける上で王家に約束させた条件だ。

 あくまでも俺は、王太子殿下の遊び相手、という立ち位置。

 王家がどんなに熱望しようと、ルーチェは王政に関わる気など皆無だ。


 俺だって、王政になんて興味はない。

 そんなものより魔法の方がよほど楽しい。




 王城の禁書庫に入りたかったのは、本当。

 あそこにしかない魔法書が、喉から手が出るくらい読みたかった。


 ……でも、王太子が彼じゃなかったら……俺は、従者になんてならなかった——






「んん……ルナちゃん、おはよぉ」


 眠気を含んだヴェルクの声に、ハッと我に返る。

 無限ループしかけた思考を、寝起きのヴェルクに掬い上げられた。

 しょぼしょぼ眼のヴェルクに、自然と強張っていた身体から力が抜ける。



「おはよう、ヴェルク。よく眠れた?」

「んー。朝ごはん、何かなぁ……?」



 くちゃくちゃの髪でへにゃへにゃと笑うその姿に、胸の奥に熱が戻ってくる。


 そうだね、お腹が空いた時の思考はマイナスに偏るから駄目だ。

 まずは起きて朝ごはんを食べて、それから。








 ——そうだ、聖地巡礼しよう。

 本当に俺の知ってる“ののの”の世界なのか。

 この目で、確認しないとね。




.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。