56. 死に確は宣告する
「きゃあっ!!? 何なのよコレッ!? あっち行けっ!!」
「ギィッ!! ギイィッ!!」
ノックもなく深夜に侵入してきたそれに、シュロは大型犬サイズにまで戻り威嚇を続ける。
「ちょっと、黙りなさいよ!! ——え、これ、あの時のドラゴン!? え、なんで!? 冷血男のところにいるはずじゃ——……あ、魔王の中ボス!!?」
「ギィイィィィイィッ!!!!」
「なんでこんなのが死に確の部屋に!? もう意味分かんな——」
「いや、意味分かんないのはお前の方だってば」
滑稽過ぎて、思わずツッコんじゃったよね。
指を弾いて室内に明かりを灯せば、そこにへたり込むのはピンクの沼の妖精。
あろうことか、その傍らには驚きで取り落としたらしき短刀まである。
……あれ、ヒロインの懐剣じゃん。
殿下が暴漢に襲われた際に助けるアイテムで、何をしようとしていたの?
「兄妹とはいえ、深夜に無断侵入なんて感心しないよ。しかもこのタイミングで——寝首でも掻くつもりだったの?」
「っ、何だと?」
「ギィッ!!」
「ち、違いますっ!!」
弾かれたように顔を上げた美少女は、その顔に取り繕ったかのような笑みを浮かべる。
「酷いですルナお兄様、私がそんなことするわけないではありませんか——え? ヴァン、様——……?」
甘ったるい声で言い訳を募るカルミアの口が、ぽかんと開いたまま、固まった。
……まぁ、同じ顔した兄が一国の王太子と同じベッドにいたら、そうなるわな。
でもそれだって、こんな時間に無礼を働いた自業自得なわけだし。
「え!? ちょっと、どういうこと!? なんでここにヴァン様が!!? ……あ、アタシの部屋と間違えた——のね!? そうなのねっ!!?」
「……キュィ……」
「……何を言ってるんだ、アレは……?」
殿下とシュロがシンクロしてる。
本当に、ね。
——もう、いい加減にするべきだよ。
ベッドから立ち上がりシュロの傍に立つと、その美しい翼を広げて俺を背後へと庇った。
番竜失格なんて言ってごめん。
お前は最高の騎士様だよ。
ヴェルクの目に間違いはなかったね。
「カルミア。お前は学園に入ることなく、領地に戻るんだよ」
父さんが、当主が領地を外してまで直々に下した判断。
ゲーム脳のまま?
でも俺たちはこの世界で15年を生きてきたんだ。
いい加減、現実を見ろ。
この事態の重さを、受け入れるべきだ。
王立学園卒業の箔がないと嫁ぎ先は減るかもだけど、カルミアはルーチェの娘だからね。
この先詰んでるってわけでは、全然ない。
——それなのに。
「はぁ!? そんなわけないじゃない!! アタシは王太子付従者として王立学園に入学して——」
「四大令息か王太子と恋愛して、魔王を倒して、聖女になるの?」
「っ!!? あ、アンタ、どうして——!!?」
座り込んだままのカルミアに唸り声を上げ続けるシュロの頭を撫でる。
そうだね。“ののの”でドラゴンといえば、魔王討伐ダンジョンの中ボスだったっけ。
中ボスって何? ってくらい、レベルエグかったけど。
——あの運営だし。
「俺ら貴族子女にとって、当主の言葉は絶対。当主が子を入学させるに足らないと判断したら、それまでなんだよ」
カルミアが、大きなその瞳をますます見開いた。
「——だから、もうお前のゲームは始まらない」
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