43. 魔法オタクはご都合主義に期待する
本日の執務も滞りなく終了。
日もさほど傾いていない、絶好の調べもの日和だと思う。
魔術書の他に、魔法書の新書もあったりしないかな?
ウキウキと扉の前に立ち、殿下に向かって頭を下げる。
「では殿下、本日はこれで失礼いたします」
「あぁ、馬車まで送ろう」
「ふぁ?」
間抜けな声と共に顔を上げると、殿下の薄い唇が小さく「可愛いな」と動いたのが読み取れてしまった。
頬が熱くなって、思わず下を向いてしまう。
「殿下、それは自分が」
「お前は騎士団の訓練があるだろう」
「本日は自主練ですので大丈夫です。お心遣い、痛み入ります」
……なんのやり取りなのかな。
ってか。どこの世界に自分の主人に見送らせる従者がいるの!? ここか!
王城を出入りする人間の中には、見たものを面白おかしく吹聴する人間だっているわけで。
「あの、この後図書館で調べものをと思っております。ですので、こちらで結構で」
「そうか、ならばお連れしよう」
殿下に腕を差し出され、その意図を理解し固まってしまう。
……エスコートするって、こと?
男性の腕に女性が腕を絡めて寄り添う、アレ。
いや、どこの世界に自分の主人にエスコートさせる従者がいるんだよぅ! ココダヨー!
「殿下、ルーチェ令息が困っていますよ」
「ルナリアは困ってなどいない」
「第一王子殿下に見られたりでもしたら、ますますルーチェ令息に興味をお持ちになるかと——」
「それは如何ともしがたい由々しき事態だ。私の目のない場で万一の事があったらいけない。さぁ、行こうかルナリア」
差し出していた腕をするりと俺の腰へと添えると、何とも言えない絶妙な距離感で歩き出す殿下に舌を巻く。
いや、これだっておかしいからね——!!?
◇◇◇
執務室から図書館への道を歩く殿下は、妙に機嫌がいいように感じた。
……それは、俺にも言えるかも。
だって、触れ合ったところから感じる殿下の魔力が心地いい。
……殿下もなのかな? だったら、とても嬉しい。
「何を調べるんだ?」
「今日は魔術書です」
「……魔術?」
「はい、魔法発動の自動化ができないかな〜と思い立ちまして」
俺の言葉に殿下は、一定の距離を開け後方に付き従っているエビネ様を振り返った。……何故?
見れば、エビネ様も表情を引き攣らせている。これは珍しい。
「……ルーチェ令息、その件を辺境伯代理へご報告は……?」
「え? 調べものですよ? さすがにしませんよ〜」
俺と違って、兄さんはこちらでもそれなりに忙しいのだから。
こんなことで逐一報告に入っていたら、ウザがられてしまう。それは避けたい。
「——エビネ」
「御意に」
軽やかに踵を返し、立ち去って行くエビネ様。
え? なんで?
エビネ様の背中と殿下を見比べていると、ふと殿下が呟く。
「……図書館もいいが、訓練場に行ってみるのはどうだ? 今日は……あぁ、この時間なら丁度、王城魔法師団と王城魔術師団の合同訓練中だ」
さっきまでの疑問なんて吹っ飛んだよね。
「えぇっ!? 行っていいんですかっ!!?」
「あぁ、私が同行していれば文句もあるまい」
……ちょっと権力乱用な気もします、が!
テンション上がり過ぎて、思わず殿下の手を握ってしまう。
「ありがとうございます殿下っ! 嬉しいですっ! 俺、前王城魔術師団長がご勇退なさってから王城魔術師団から遠のいてしまいまして……本当に久し振りなんです!」
「そうか……」
あ、ちょっと距離を詰めすぎちゃったかな?
なんか抱き着くみたいになっちゃったのが恥ずかしくて、慌てて離れようとして……逆に、抱きしめられてしまう。
「で、殿下っ!? 駄目ですこんなところで——っ!」
「……君ならきっと、現王城魔術師団長ともあっという間に打ち解けるさ」
耳元に囁かれた言葉は、誰かが来るかもしれない焦りでまともに頭に入らない。
頼むから、普通に話してよ殿下——っ!
なんとか従者の距離を取り戻すと、コホンと咳払い。
「で、では、早速訓練場に行きましょう! さぁ、お早く!」
「……あぁ、行こうか」
ふっと目元を緩ませた殿下と連れ立って歩きながら、期待に胸を膨らませる。
だって、王城魔法師団と王城魔術師団の共同訓練だよ!?
王城魔法師団も王城魔術師団も、魔塔の人間で編成されていて……あ、魔塔は魔法塔と魔術塔の総称ね。
魔塔といったら魔法師と魔術師の憧れ!
ごく一握りの人間しか入ることのできない、まさに聖域——!
例えるなら……某最高峰の有名大学ってとこかな?
その共同訓練って、どんだけレアなの!?
殿下がいなければスキップでもしちゃいそうな心地で、訓練場への道を急いだ。
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