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40. 双子の兄は運命を疑う



 俄かに騒がしくなったエントランス。

 俺の髪をひと撫でしたアルフが立ち上がり、姿勢を正す。


「落ち着きなさい」


 決して大きくはないその声に、場が一瞬にして静まりかえる。

 その場にいる全員が、シャンデリアを確認するアルフを直立不動で見守った。


「……ふむ」


 長くも感じるわずかな時間の後、アルフがかすかに眉をしかめるのが見えた。


「——誰か、当主代理にご報告を」

「は、はいっ!」

「……え?」


 慌ただしく駆け去って行く足音が、ひどく遠くに聞こえた。

 ただの事故であれば、事後報告で十分なはず——……いつものアルフなら、そうする。


 背の高いアルフの背後から、シュロの血だまりで輝くシャンデリアを覗き込む。

 天井とシャンデリアの接合部分の破損による落下であることは一見して分かった。

 問題は——その破損の原因か。

 使用人たちの仕事により美しく保たれているとはいえ、古い建物だ。

 経年劣化による事故であれば、まだ納得ができた。


 しかし——今目の前にあるそれは、破壊により酷く変形している。

 故意によるものであることは、誰の目から見ても明らかだった。


 ——事故じゃ、ない……?

 ルナリアの死因は“事故死”だ。

 皮肉なことに、この設定は公式から保証されている、絶対。

 ……だとしたら、今のコレは、ゲーム軸のものではないことになる。

 だって——これでは殺人じゃないか。


 背筋を、ヒヤリと冷たいものが走る。

 胸元のシュロを、無意識に抱きしめた。




「ルナリア坊ちゃま、お足元が危険です。念のため、私の後ろへ」


 穏やかな口調に、ハッとする。

 言われた通り乗り出しかけていた身を引くと、アルフが柔らかく微笑んだ。


「……申し訳ありませんが、もう少しご一緒願います」


 アルフだって酷い目にあったばかりなのに。

 頷くと、アルフの身体が触れるくらい傍に寄り添う。

 邪魔だろうに、アルフは何も言わずにいてくれた。





「煩わせたな、ひとまずは持ち場に戻れ」


 騒ぎに集まっていた使用人が兄さんのために道を開け、その短い指示に頭を下げ戻って行く。

 階段を軽やかに下りてくるその姿に、こわばっていた身体から力が抜けた。


「兄さん、あの、」

「あぁ、無事なんだな?」

「うん、大丈夫……」


 頷く俺に目を走らせると、小さく息を吐き俺の頭をくしゃりと撫でた。


「お前も、よくやった」

「勿体なきお言葉」


 恭しく頭を下げるアルフに口角を上げた兄さんが、アルフから簡潔な報告を受ける。

 残骸となったシャンデリアへと目を向ける兄さんの横顔は険しい。


「……どう見ても事故じゃねぇな」

「はい、その可能性が高いかと」


 兄さんの呟きに、アルフが重々しく頷いた。

 ……自分の考えが肯定されてショックだなんて、初めてかもしれない。

 だけど思いを裏切るかのように、接続部分には、外的衝撃を受けたことがハッキリと分かる痕跡が残っている。


「攻撃魔法は扱えるがコントロールがからっきし、この屋敷にどれだけいる?」


 不自然にひしゃげた接続部分を観察しながら、兄さんは淡々と言葉を並べた。


 ——コントロール?

 意外な言葉は、俺の頭を少しばかり冷静にさせる。

 よくよくシャンデリアを見れば、確かにいくつもの衝撃痕。

 見上げれば、それは天井にまで及んでいた。


「……ド下手くそ、ですね」


 静止している上に、それなりに大きいシャンデリア相手に、どれだけ外してるの?


「ソルヴァス様とルナリア様ではございませんね」

「笑わせんなよ」


 場違いな笑い声が漏れた。


「ルーチェの使用人でもねぇな」


 アルフから、表情が消える。

 少人数精鋭のこの屋敷内において、コントロールがからっきしの、魔法を学んでいない人間なんて——……




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