38. 双子の兄は未来を見据える
ルナちゃんへ
おげんきですか?
ぼくは、ルナちゃんとソルくんとシュロがいなくてさびしいけれど、げんきです。
このあいだは、マカロンとすみれのおさとうづけをいっぱいありがとう。おいしかったです。
いっしょにはいっていた、ソルくんからのおてがみをよんだパパとママが、すごくわらっていました。
ルナちゃん、またなにかしたの?
あんまりソルくんをこまらせちゃだめだよ。
ヴェルクより
「ぐぬ……何も言い返せない」
「キュイ」
使用人が部屋まで持ってきてくれたヴェルクからの手紙を読みながら、行儀悪くベッドに転がる。
で、シュロは俺の腹の上で伸びている。
……主人を下に敷くって、どういう所存?
今日はオフだから、登城の必要がないんだよね。
あ、謹慎ってわけじゃないよ?
領地なら散歩にでも出かけるところだけど、王都はなぁ……これといって、知り合いがいるわけでもないし。兄さんは忙しいし。……お、俺のせいじゃないからね!?
……あれ? 俺、王都の友達って……エビネ様と殿下?
いや、エビネ様は友達なんて言ったら失礼だよね。
殿下は主人だけど友達でもあるというか……うん、だもんね。
……あ、なんか照れる。
無性に恥ずかしくなってベッドの上をゴロゴロ転がると、振り落とされたシュロが不満げな声を上げた。
「あ? ってことは、つまり、」
王都に友達……い、いないだと——?
「……と、とりあえず、学園から届いた荷物を確認しよっかなっ?」
考えないことにして、部屋の隅に置かれた箱に飛びつく。
なんたって、入学式まであと半月もないからね。
王立学園の紋章が入った箱の中には、新入学生が必要とする諸々が詰め込まれていた。
制服に靴にバッグに教本に……お、魔法学の実践訓練の時に着用するマントまである。
俺は申請しなかったからないけど、ヒロインと一部の攻略対象はステッキなんかも入っているはず。
使わないけど、見たかったかも。
取り出した制服を身体に当て、姿見に映す。
「おぉ……なんか、感慨深いな」
王立学園の制服を着るルナリアか……
いやほらだって、ゲームでは見ることができなかった姿なわけでしてね。
当たり前だけど、“ののの”の攻略対象が着ていたものと同じデザイン。
全体的に細身シルエットなのは、乙女ゲームあるあるだよね。
「悪くはない、よね? ……男装したヒロインにしか見えないのがアレだけど」
あるんですよ、ルートによっては。
男物の制服を着てるのに攻略対象にはあっさり見破られて「えぇ!? どうして分かったの!?」ってエピソード。
いや、分からん方がおかしいっちゅうねん! 全プレイヤーが突っ込んだよね。
だってヒロイン、ショートパンツにニーハイソックスを靴下留めで留めて、厚底のショートブーツだったんだよ……
——いや、可愛かったよ?
だけどさ、攻略対象たちが細身のスラックスな中でそんな改造制服って——運営は分かっていらっしゃる。
コスイベがヒロイン制服であふれ返った、胸熱な思い出。
あ、スラックスのセンタープレスが乱れたら嫌だから、出しておこ〜っと。
「……あれ?」
「キュイ?」
「スラックス……あれ?」
箱の中をもう一度見る。
……ない。
—— な ん で シ ョ ー ト パ ン ツ ?
頭の中を???でいっぱいにしながら、努めて冷静に箱をあさる。
履き口に繊細なレースが彩られたニーハイソックス、シンプルな靴下留め、それから……厚底ヒール仕様のショートブーツ。
「——いや、おかしいでしょ!?」
「キュイッ!?」
俺、こんなカスタム頼んでない——!!
あ、乙女ゲームの舞台だけあって、制服は多少のカスタムが可能なんだよね。
制服を仕立てる際に学園に申請すればいいっていう、ご都合主義システム。
攻略対象の制服が微妙に違うのはそういうことだったのかって納得したよ。
火の攻略対象なんか、ワイシャツ赤だからね。
「も〜、後でスラックスだけ普通のにしてもらわなきゃ。間に合うかな……」
「……キュィ〜」
「——今、どーでもいいじゃんって言った?」
「キュッ!? キュイッ! キュイッ!」
ジト目で見たら、シュロが慌てたように首を振りながらくねくねしだす。
分かりやすい。
……でもまぁ、制服が届いたって事実は、純粋に嬉しい。
「シュロ、どう? 似合ってる?」
「キュイ」
浮かれながらくるくる回っていると、我が物顔でベッドに寝そべっていたシュロが顔を上げた。
「キュッ」
「うん? どうしたの?」
声を掛けたのと、扉をノックされたのはほぼ同時。
応じる間もなく、ノックの意味を問い質したくなる勢いで扉が開け放たれた。
「ルナお兄様っ! 制服は届きましたかっ!? って、あらぁ……よくお似合いですぅ、うふふ!」
「着替えようとしてたんだから、勝手に開けないでよ。……何この臭い、香水? きつすぎるよ」
「……え?」
ジロジロと値踏みするみたいな視線が不快で、思わず口調が硬くなった。
嗅ぎ慣れない甘ったるい香水の臭いも、強すぎて頭が痛くなる。
デパート1階の化粧品売り場じゃないんだから……加減ってものを知らないの?
今日も相変わらずピンクの沼の妖精だし……見た目は“ののの”そのままの愛らしいヒロインだけに、どうにも頭が追いつかない。
「……どうして? あんな汚いところまで行ったのに……騙された? ……あぁ、でもコイツは——だし、対象外ってこと……?」
聞き取れない独り言を早口でブツブツと呟きながら考え込む、カルミア。
……美少女だけど、不気味だ。
ドン引いている俺に気づいたのか、パッと顔を上げたカルミアは、何故かうんざりしたように俺を見た。
「——まぁ、いいわ。 せっかく私がショッピングに誘いにきて差し上げましたのに、無礼ですね」
「頼んでないよ」
手にしていた制服をクローゼットに片づけ始めると、まさかの舌打ち。
「カンジ悪っ!」
どっちが?
シュロなんてさっさとベッドに潜り込んで気配を消している、ずるい。
「じゃあ、エントランスでお待ちしておりますから。——あまり皆様を待たせないでくださいね?」
「は? ちょ、誰が行くなんて——」
勢いよく閉まる扉、淑女のしの字もありはしない。
……これ、行かなかったら俺の方が約束ブッチする最低野郎に見られるってこと?
「最悪……」
街まで馬車で30分程度とはいえ、一緒の空間に二人きりとか考えられない。
「シュロ」
「キッ」
シーツの隙間から顔だけ出したシュロが、ジト目で俺を見る。
「マカロン5個」
「キュッ!? キッ」
フイッと顔を背けながらもチラチラこちらを気にしてるの、バレバレ。
「10個」
「キュッ!? ……キュィー」
よし、もう一声。
「12個」
「キュッ!? キュイ!」
ベッドから飛び出てきたシュロが、肩へと降り立つ。
フッ、チョロいな。
「新しくできたパティスリー、結局まだ行けてなかったからね。そうだ、ヴェルクに贈り物しようか? チョコチップクッキー、あるかなぁ?」
「キュイ! キュイ!」
長い尾をバタバタさせながらルビーのような目を細めるシュロの頭を撫でながら、ヴェルクの手紙を指でなぞる。
「頼むよ、騎士様。——ヴェルクとの約束、守らなきゃね」
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