32. 魔法オタクは辺境伯代理と登城する
「今日は俺も登城する」
数日の内に、朝食は兄さんと二人の時間へと戻った。
俺的には万々歳。朝からあんな空気はもう願い下げだよ。
食事は美味しく、楽しくがいいからね。
カルミアは期待を裏切ることなく華やかな王都にどっぷり浸かった模様。
毎日お茶会やらパーティーのお誘いが引っ切り無しなんだよね。
……二回目のお誘いがあるのかは知らないけどさ。
ヒロインだけあって、見た目だけは文句のつけようがない美少女だからね。
しかも光のルーチェ、唯一の令嬢。
中身が多少アレでも、なかなかの好物件のはずだ。
え? 自由に行動させて大丈夫なのかって?
勿論、常に誰かをつけているよ。
信用無いから、当然だよね。
「本当ですか!? でしたら、帰りにデートしましょ! 新しくできたパティスリーに寄ってもいいですか? マカロンが美味しくて可愛いクッキーもあるんですって! ヴェルクに送りたいなって思ってて!」
「……女子かよ」
「キュイ!」
「「お前は留守番」」
「キュ〜ン……」
へにゃっとその場に倒れるシュロに、思わず笑ってしまう。
「いい子にしてるなら、お土産買ってきてあげてもいいんだけどな。マカロン、好きだよね?」
「キュイッ!」
途端にキリッとするんだから、本当に現金だよね〜……
◇◇◇
王都には神殿があるから、光の加護持ちである神官様がいる。
——とはいえ、銀髪はまぁそれなりに目立つわけで。
それに加えて、今日隣を歩くのは、この世の美を掻き集めたかのような麗しの兄。
登城に合わせて前髪を上げ、額を晒したいつもとは異なるヘアスタイル。
シンプルな細身のスーツを完璧に着こなすその姿は、同性の俺でも見惚れるほどよく似合っている。
事実、先ほどから周囲の女性のみならず男性の視線まで総なめ状態。
当の本人は、意にも介していないのだけれど。
俺だって髪型を真似して、今日はスーツもお揃いにしてみたんだよ?
でも、イマイチきまらないんだよねぇ……
漫画やゲームだったらヒロイン顔でもなんら問題ないし、むしろ萌えなんだろうけどさ。
いざ自分がそうなると……微妙?
兄さんが着るようなシンプルなスーツは笑っちゃうほど似合わないし、女の子にはびっくりするほどモテない。
いかがわしい系の大人には昔から、カルミア以上によくモテるんだけどさ。
男の娘、っていうの? そこがいいらしいよ。
悪戯されそうになったりとかもあったし。返り討ちにしたけど。
……あれ、そういや殿下とその……そういう風になってから、そういうのなくなった……かも?
殿下にバレなくてよかった〜……恥ずかし過ぎる黒歴史だもんね。
「そういや兄さんは、なんで登城したの?」
「……どこぞの誰かのやらかしのフォローだな」
「ぐっ!」
え、なんで!?
バレてないはずでしょ!?
思わず蒼穹を凝視すると、切れ長のそれがチェシャ猫のように弧を描く。
「なんてな。お前の殿下、ちょっと借りんぞ」
ニィっと顔を覗き込まれ、頬が熱を帯びる感覚。
「え? べ、別に俺は……」
「隠してるつもりなら、甘えんだよ」
闇色のピアスに彩られた片耳に触れられ、慌てて髪を整えて隠す。
え、なにこれ? すんごく恥ずかしいのですがっ!?
「ふはっ! 林檎かよ」
両頬を片手でぶにっと掴まれた。
不っ細工って笑うの、酷っ!
「安心しろ。俺が何とでもしてやる」
髪をぐちゃっと掻き回され、またしても登城用ヘアスタイルが乱れる。
……嫌な気持ちなんて、微塵もないのだけれど。
もう、兄さんってば男前すぎ。好き。
攻略対象だったらマジ惚れ課金してたよね、ヤバイ。
乙女ゲームに感化されすぎでしょ、俺。
あーでも、こんな素敵な兄さん、よっぽどの人じゃないとあげないよ、とか思っちゃうのは——
仕方ないよね?
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