↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/66

27. 従者はヒロインを観察する



 窓から見える景色に緑がないと、王都に戻って来ちゃったんだなーって思う。


「殿下にお逢いできるのは嬉しいけど、ヴェルクがいないのは寂しいよね……」

「キュイ……」


 タウンハウスの自室のバルコニーから外を眺め、シュロと並んでため息を吐く。

 あ、バルコニーは事前に点検しました。異常なしです。


 領地の屋敷をコンパクトにした程度で、構造の変わらないタウンハウス。

 三階の俺の部屋からは、門から屋敷玄関までのアプローチがよく見渡せた。


「ねぇ、早くしてよ! 売り切れちゃったらどうするの!!?」


 ドレスもコスメも、王都は毎日のように新作が出ているからね。

 毎日、多い時には一日に二回も街へと繰り出して爆買いしている。


 思った通り、王都に着いたその瞬間から買い物狂と化したカルミア。

 道行く貴族令嬢を見るなり、目についたブティックに飛び込んで全身新調していた。

 曰く、「こんなデザイン、恥ずかしくてもう着られない!」——んだとか。


 5日前に「買ったばかりの新作!」って自慢してたのどこのどいつだよ……

 その「恥ずかしくてもう着られないドレス」を山ほど運んでいる使用人たちに謝れ。



 ヴェルクからの忠告以来、注意はしているものの……

 今のところ、彼女に不穏な動きは見受けられない。

 多分、生まれて初めての王都に意識が持っていかれている……のかな?

 ほら、ドラマや小説でよくあるじゃない?

 田舎育ちの少女が、テレビや雑誌で憧れていた大都会に初めて来て、舞い上がってるシチュエーション。

 まさに、アレ。

 俺的には、ずっとそうしてくれていた方が、まだマシだったりする。


 え? ヴェルクを疑わないのかって?

 当たり前じゃない。

 ——ヴェルクはそんな、悪趣味な嘘を吐く子じゃないもの。




◇◇◇



「王都ってなんて素敵! もうあんなド田舎、願い下げです!」


 ヒロイン特有の屈託のないキラキラした笑顔で宣言してくれたよ。

 事もあろうに、兄さんやタウンハウスの家令であるアルフレッド、複数の使用人たちがいる朝食の席でね。

 屋敷維持のため、辺境からこちらに最小限の使用人が常に常駐している。

 つまり、ここにいる人間はそのド田舎を故郷とする者ばかり。

 中には家族を辺境に残し、こちらに出向いてくれている者もいる。


 ちなみに、アルフレッドは本邸で家令を務めるセバスチャンの、双子の弟なんだよ。

 パッと見では判別がつかないくらいに似てるんだよね。



 精鋭揃いのルーチェだけあって、誰一人、表情を変えることはなかった。

 ……けれど、明らかに冷えた空気。

 口に含んだパンの味が分からなくなる。

 せっかく焼き立てふわふわだったのに……


「そうか」


 父さんが領地にいる今、この屋敷の主人は兄さんだ。

 上座で一つ頷いただけ……あぁ、空気が重い。


 兄さんの短い返答に何を勘違いしたのか、カルミアはますます上機嫌に口を動かす。


「あぁ、そうだわルナお兄様。今日は登城なさるんですよね。私もご一緒しますね」

「——は?」


 スルー検定、不合格。

 ちょっと、何言ってんのか分かんない。

 思わず兄さんを見ると……あ、固まってる。


「だって、ヴァン様にお会いするんでしょう? 私もご挨拶しませんと」

「え、何のために?」


 つい、真面目に聞き返してしまった。

 俺の反応が想定外だったのか、今の今まで饒舌だったカルミアの眉がわずかに上がる。

 そして、心底呆れたような溜め息を一つ。


「私がルナお兄様の双子の妹だからに決まっているではありませんか……」


 不出来な生徒に言い聞かせるような口調でそう言うと、ライフチェリージュースのグラスに口をつける。



 ……え? ちょっと、本気で意味が分からないんだけど……



「ルナリアは従者を命じられ、その執務のために登城するんだ。遊びに行くわけではない」

「そんなの、存じ上げておりますけど?」


 聞いていられなかったのだろう兄さんの諭す言葉に、露骨に唇を尖らせる。

 ……いや、スチルだったら可愛かったかもしれないよ?

 でも今は、宇宙人を見る気持ち。


 兄さんの眉間に寄っていた皺が、スッと消えた。

 明らかに平坦になる口調は、驚くほど父さんに似ている。


「ではお前は誰の許可で登城しようとしているんだ?」「……え?」

「茶会にでも招待されたのか? 王城の、誰に?」

「え、あの、」

「王城の誰かに要件があるのか? 先触れは出したか? その者から許可は下りたのか?」

「そ、それは、」


 銀のカトラリーが静かに皿の上で止まる。


「たとえ王城の許可が下りたとして、俺がお前を登城させることはない。——何故だか分かるか?」

「へ? あ、いえ……」


 それまで淡々と言葉を紡いでいた兄さんが、初めてカルミアを見た。

 絶対零度の、蒼穹の宝石眼。


「不出来な者を登城させることは、その家門の恥になるからだ」

「え? は、はぁ……」


 一気にそこまで告げると、兄さんはまた食事へと戻ってしまう。


 あまりの空気の悪さに周囲に視線を走らせるけど、屋敷の者たちの誰もが、完璧に空気に徹している。……プロだな。


 で、当の本人。

 ひとしきり首を傾げた後に食事を再開したからね!

 皿にシルバーがぶつかる音が、食堂内に耳障りに響く。

 すごいよ、多分全然分かってない。


 食器の上げ下げ一つとってもなっていないカルミア。

 登城どころか、そこいらのお貴族サマ主催のお茶会への参加も、まだまだ遠そうだ。



 ……攻略対象とのランチ、どうするつもりなんだろうね?




.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。