26. 次男は小さな騎士の想いを知る
ちょっとしたハプニングはあったものの、楽しく過ごした長期休暇。
名残惜しくはあれど、今日は王都へと戻る日だ。
バルコニー落下事件からヴェルクはますます俺にべったりになり、ついには授業中にまで同伴するようぐずられる始末。
いや、授業参観みたいでそれなりに楽しかったけどね。
魔法学の先生が魔塔勤めの魔法師でね、ついオタク方向に話が弾んじゃって……ヴェルクの授業の邪魔をしたりなんてしていないよ、うん。
何だかんだで帰郷時よりも増えてしまう荷物を馬車に積み終え、いよいよ出発の時。
……え、カルミア?
まだ馬車に荷物積んでるよ。
ってか、荷物多過ぎ。夜逃げだと思われるよ……
凄すぎて物理的に同じ馬車に乗れなくなったのは、俺的には幸いだったけどね。
あんなのと一緒の馬車に5日とか、マジで無理だから。
俺と兄さんは別の馬車で先に出発します。
あっちは、あと3時間もしたら移動できるんじゃない? 知らんけど。
馬車に乗り込む前に、見送りのために庭園まで出てきてくれたヴェルクとしばしの別れを噛み締める。
「じゃあね、ヴェルク。ほら、そんな顔しないで」
「キュイ」
「……お前はこっちに残りなよ」
何故かついてくる気満々のシュロに呆れてしまう。
多分、一番ヴェルクに懐いているくせにね。
「ううん、シュロちゃんも一緒に連れて行って。シュロちゃん——ぼくの代わりに、ルナちゃんの騎士様になるんだよ」
「キュッ!」
「それ、まだ続くんだ……」
うーん、ヴェルクはそんなに騎士様に憧れていただろうか?
このくらいの年齢の男の子たちの花形職業ではあるけどね、騎士様。
「ルナちゃん……」
「うん? どうしたのヴェルク」
離れたがらないヴェルク。
膝をついて向かい合い、視線を合わせる。
「また長期休暇に帰ってくるよ、いっぱい遊ぼう」
「うん」
「父さんが王都に来るときはヴェルクも一緒においでよ。ケーキの美味しいカフェに連れて行ってあげる。クリームたっぷりの苺のケーキが美味しいんだ。ヴェルクもきっと気に入るよ」
「うん。約束だよ?」
差し出された小さな小指に小指を絡めて、約束する。
「じゃあ、行ってくるね……ヴェルク?」
解けた指先を、ヴェルクが掴んだ。
酷く思いつめた顔で、縋るように抱きついてくる。
「ルナちゃん、約束だよ。だから——いなくならないでね」
「……ヴェルク?」
背筋を、ヒヤリとした何かが撫でた。
——どういうこと?
「……ぼく、見ちゃったの。みんなが、落ちちゃったルナちゃんのところに集まって、パパやソルくん呼んで、心配してたの」
あぁ、ヴェルクは階段から落ちた俺のことをまだ心配してくれていたのか。
こんな小さな子に余計な心労をかけてしまったことが心苦しい。
「あぁ、心配かけてごめ——」
「ぼくね、ルナちゃんに謝りなって言おうとしたの。わざとじゃなくても、怪我させちゃったらごめんなさいでしょ? だから。……でもね——笑っていたの」
「……え?」
「ルナちゃんの頭から血が出て、痛そうで、こわかったのに……」
大きな宝石眼が潤んで、今にも溶けてしまいそうだ。
震える声で、一生懸命言葉を紡いでいるのが分かった。
「離れちゃったらぼくはもう、ルナちゃんの騎士様でいられないから、守ってあげられないから——だからお願い、ルナちゃん」
小さな手が俺の頬を包むと、額がこつんとぶつかる。
零れ落ちる綺麗な涙を、無意識に目で追った。
「 ル ミ ィ ち ゃ ん に は 、 絶 対 に 近 づ か な い で ね 」
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