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23. 次男は死にかける、その1



「ねぇヴェルク、これ美味しいよ」

「ルナお兄様〜ぁ!」


 ナッツとグラノーラのチョコレートをヴェルクの口元に寄せる。

 あーんと口を開けるのが可愛い。


「んっ、んん! 美味ひぃね!」

「ね、ザクザク食感がいいよね」

「ルナお兄様〜ぁ!!」


 一口サイズでつまみやすいのもいい。

 ちょっと中毒性のあるお菓子だ。


「キュイ」


 何故かヴェルクと一緒に口を開けている白竜、もといシュロの口にも放り込んでやる。

 ……今更だけど、ドラゴンってチョコレート大丈夫なの?


「シュロちゃんも美味しいね〜」

「キュイ〜」

「ちょっと!! ルナお兄様、聞こえていらっしゃいますのっ!!?」

「……うるさいなぁ」


 ヴェルクとの楽しい時間に入り込んできた金切り声に、渋々階下を見る。

 眼下に広がる庭園には、思った通りの全身ピンク。

 まぁ、担当カラーだったから仕方がないのかもしれないけどさ。


 あ、庭園っていっても、花じゃなくて主に野菜を育てているよ。

 同じ世話をするなら、食べられる方がいいからね。


 優雅に日傘を差しながら散策中といったところか。

 家庭教師を撒くために街に出ることが日常のカルミアが、屋敷に留まるなんて珍しいこともあるものだ。


「何か用?」


 ソファに座ったまま、バルコニーの柵越しにカルミアを見やる。

 あぁ、今日もうんざりするほど同じ顔。


「ねぇ見てください! 今日のお洋服、とても素敵でしょう? 王都で流行りのデザインなんですよ!」

「ウワー最高ー! スゴクヨク似合ッテイルヨ! ピンクの沼の妖精とは、正にキミのことだね!」

「ちゃんと見てから言ってください! 最後だけ流暢なのも気に障ります!」

「……だったら俺に声かけないでよ」


 碌なことを言われないって分かってるだろうに……それに、王都の流行りが領地に届くのには数ヶ月かかるからね。

 領地に流れてきたってことは、王都の流行は既に別のスタイルに移行済みということ。

 こればっかりは、田舎の性だよねぇ。


「ちゃんとこっちを見てください!」

「だから見てるってば」

「ちゃんと!! 見なさいよぉっ!!」


 ……何をそんなに?

 ヒステリックな声に、屋敷の者たちがこちらを気にし始める。


「……ルナちゃん」

「あーごめん、大丈夫だよ。ちょっとつき合ってくるだけだから」


 ヴェルクが不安げな顔で、俺の服の裾を掴んだ。

 もう、何なんだよ一体。


「うるさいよ、何なの?」

「ちゃんと私を見てください! そこからで構いませんから!」


 ちゃんと見ろと言うわりには、3階からでいいのか……

 ソファから立ち上がり、バルコニー越しにカルミアを見下ろす。


「ねぇ、素敵でしょう?」

「……あぁ、似合ってるよ」

「もっとちゃんと見てください! ほら、このブローチも可愛いでしょう? 何が彫ってあると思います?」


 胸元を飾る、ピンクのブローチ。

 この位置からモチーフを当てろって、視力検査じゃないんだから……


「そんなの、ここから見えるわけないじゃん。……そっちに行くから、」

「駄目よ!! そこから見てっ!!!」

「……もう、」


 見えるわけはないけど、バルコニーの手すりに身を寄せた——瞬間。


「え?」

「っ!!? ルナちゃんっ!!」

「ギュッ!?」


 ふわりと前へ投げ出される感覚。

 手すりごと前に倒れ、落ちる。

 俺の身体も——俺を助けようとした、ヴェルクも。


「っ!!」


 身体が投げ出される。

 あぁ俺、この間階段から落ちたばっかりなのに。

 妙にゆったりとした浮遊感。

 一種の走馬灯ってやつ?

 ……いや、違うか。思い出してんの、階段から落ちたことだけだし。

 ってか、今回は前回より高さがある気がする。——ヤバイ。


 使用人たちの悲鳴。

 ヴェルクの小さな身体を抱き込み、衝撃を覚悟した。



 ——その時。




「キュッ!」

「ぅおわっ!?」

「きゃあぁっ!?」



 指先を弾くより早く。

 地面と俺たちの身体の間に白い何かが入り込み、そのまま一気に上空へと舞い上がった。



「なっ!? え、あ——シュロ!?」

「キュイ!」

「シュロちゃん、すごいっ!!」



 一瞬で肩乗りサイズから俺たちを乗せられるサイズにまで巨大化したらしい。

 ドラゴンの背中に乗るって、なんてファンタジー!

 あっという間に屋敷が小さくなり、城下町や果樹園までもが見渡せる。



「すごいや……シュロ、お前すごかったんだねぇ!」

「キュイ!」

「高いねぇ! 綺麗だねぇ! シュロちゃんはいつもこんなに素敵なものを見ているんだねぇ!」

「キュイ〜」



 くるりとゆっくり旋回しながら、領地の上空を悠々と飛び回る。

 街ゆく人が驚愕の表情で見上げるから、ヴェルクと顔を見合わせて、ニヤリ。


「“光よ! ぼくの大好きなみんなを幸せにして! ≪光祝(ルーチェ)≫”!」


 ヴェルクの詠唱に合わせて、指先を弾く。

 プリズムのハレーションがまばゆく地上へと広がっていく。

 両手を空へと突き出した人々の歓声がこちらにまで聞こえてきた。


「あれ——聖獣!?」

「違う、ドラゴンだろ!?」

「ドラゴン!? ……いや、聖獣!? ——どっちだ!!?」

「……あっ!? あれ、ヴェルクだ!!」

「いいなー!」

「なぁ、ルナもいる!! ——聖獣だよ、きっと!!」

「ルーチェには聖獣がいたんだ!」

「すごーい!!」


 そこかしこで上がる悲鳴が、恐怖からのものではなくなったことに安堵。

 ヴェルクが落ちそうになるくらい身を乗り出して地上に手を振るから、そういう意味では気が気じゃないけどね。


 すごい解放感! 気持ちいい、最高!

 俺たちに気遣ってゆっくり飛んでいるのだろう。

 ……戦闘中のあの速さであれば、王都までもあっという間なんだろうな。


「……逢いたいなぁ」


 毎日手紙のやり取りはしているけれど。

 ——顔が見たい。声が聞きたい。


「? 誰に?」

「キュイ?」


 振られた二つの声。

 王都の方面を見つめて、小さく呟いた。



「……ないしょだよ」




























「あ! 殿下だよ、きっと!」

「キュッ!」

「ちょ、なんで知ってんのっ!!?」




.

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