21. 次男は兄に忠誠を誓う
あー、フラグ回収したんだ。
って気づいたのは、傭兵の一人が出してくれた帰りの馬車の中だった。
ほら、人目につくとまずいからね……
子供たちへの伝言も、傭兵たちにお願いした。
怒ってるかもなぁ、今度会う時はたくさんのお菓子を持って行かないと。
◇◇◇
あの後、すっかり飼いドラゴンと化した白竜に傭兵たちが騒ぎに騒いで、場を収めるのに苦労——は、しなかった。
兄さんの一喝で収まったのでね。
腕前に多少の差はあれど、王都のギルド規定ではA〜S級の傭兵たちをもってしてこの反応だ。
実際のドラゴンの扱いの難しさを描いたゲームは、存在しないに違いない。
「いいか、この件については他言無用。今この場で誓え」
「「「イエス、マイ・マスター」」」
学のないとされる傭兵連中が揃って膝を折る様は、圧巻だった。
すごい通り越して怖いよ、兄さん。
擦り傷と火傷程度で済んだ傭兵たちに治癒を施し、屋敷へと引き返すことになった。
当主への報告もあるしね。
ドラゴンの奇襲で被害なしなら、きっと父さんも褒めてくれるに違いない。
「キュイ」
……これさえなければ。
「ドラゴンが隷属とか……お前、どーなってんだよ」
向かいの席で窓枠に頬杖を突き、俺の膝の上にちょこんと座る白竜を見ている兄さん。
サイズ変更自由自在という俺の仮説は正しかったみたいで、今は肩乗りサイズに落ち着いている。
目の前で指先をくるくる回すと、それに合わせて頭をくるくると動かし、こてんと倒れた。
……アホなのかしら。
「俺の兄さんだよ、ソルヴァスっていうの。さぁ、ご挨拶して」
「キュイ」
兄さんに向き直り、ペコリと頭を下げた。
「いや、だからおかしいだろ」
「ジャンプして、ジャンプ!」
「キュイ! キュイ!」
号令に合わせてぴょこぴょこ跳ねながら、俺と兄さんの膝の上を行ったり来たり。
「分かったから、跳ぶな」
自分の膝の上にきた白竜を信じられないものを見る目で見ていたものの、やがてその蒼穹に何とも言えない感情を滲ませる。
「……まぁ、お前だしなぁ」
「んん?」
「お前は——父上にそっくり、だな」
「そうかな、言われたことないけど。兄さんは母さんにそっくりだよね」
兄さんが訝しむように俺を見る。
ほら、その表情なんて瓜二つ。
「母さんの学園時代の二つ名、『氷の女帝』だったらしいよ」
「まんまじゃねぇか。……いや、そうじゃねぇし」
俺の言葉に、兄さんは苦く微笑んだ。
「規格外の魔力に自由な発想——無詠唱での魔法発動センス。人望だってある」
指先が、白竜の頭をゆっくりと撫でる。
「お前……当主になる気は——」
「ないよ。全くない。俺には、当主になる兄さんの右腕になる未来しか見えないよ」
驚きに揺れる蒼穹を真っすぐに見つめて言い切れるのは、偽りのない本心だから。
憧れている人物をあげなさい、と言われたら、迷わず父さんの名を口にする。
——じゃあ、尊敬する人は?
「俺はね、この世界で一番ソルヴァス・ルーチェを尊敬してるんだ。——その隣に立つ名誉を、俺にください」
「キュイ」
「——お前はいいの!」
「キュイ!!」
せっかく格好よく決めたのに、台無し!
「お前、兄さんのことまだ何も知らないじゃん! なんで今日出会ったばっかりの人に忠誠誓えるの? ちょっと軽いんじゃないの!?」
「キュイ!? キュイ!!」
「何その目! 言っておくけど、俺は生まれた時から兄さんと一緒にいるんだからね? 兄さんがどれだけ努力してきたのか、努力してるのか、すごいのか、全部この目で見てきたの!! ノリで忠誠誓っちゃうお前と一緒にしないで!!」
「ギュイ!?」
「あー分かったから。こんなとこで喧嘩すんなよ」
ガタガタ揺れる馬車の外から、御者を務めている傭兵たちの笑い声が聞こえてくる。
仲いいなぁって、なんか違うのに!
若様ぁ、俺たちも誓うぞー! ルーチェに光をー! なんて、そんな今日のお夕飯のメニュー聞くみたいに言わないで!
「——ハハッ、そうだな」
ややあって、兄さんが笑い声を上げた。
憑き物が落ちたかのような、晴れやかな笑みをその顔に浮かべながら。
「そうだな——お前は、ずっとそうだったな」
「そうだよ、ずっと前から。これからも、ずっと」
「——あぁ」
再び窓枠に頬杖を突くと、蒼穹は窓の外へと固定された。
街は間もなく、茜色へと落ちていく。
その美しい光景に何を想っているのか。
美しい横顔は、どこまでも穏やかだった。
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