20. 次男はやらかす、その2
「死ぬなよ」
「あの程度であれば問題ないです」
「お前たち、一旦距離をとり結界内に固まれ! ルナリアが落とし次第、叩く!」
「「「応!!」」」
よく通る声で指示を飛ばす我が兄に痺れる。
戦闘に専念する俺の邪魔にならない位置まで走り去って行く兄さんたちの姿を横目に、≪光弾≫を連射してこちらに気を引く。
レーザーのような鋭い光が幾重にも空を走る。
ワイバーン程度であればただ撃つだけで仕留められるけど、今回はドラゴンだ。
撃ち落とすためには急所を狙う必要がある。
兄さんによる新たな結界の展開を確認し、鼻っ面に≪光爆≫をぶつけた。
拳大の光球は美しいけど、爆ぜると可愛くない威力を誇る。
反撃? いいよ、おいで。
結界の精度は、俺より兄さんの方が数段上だからね。
——つまり? もう何も心配ないってこと!
宝石めいた赤い瞳が俺を捉えるなり、ドラゴンブレス。
結界に直撃してわずかに軋み、熱波が入り込んだ。
兄さんの結界を一瞬でも壊せるって——ドラゴン、ヤバッ!!
≪光盾≫でガードしつつ、≪光弾≫で片翼を集中的に狙い、体勢を崩しにかかる。
——クソ、熱いな。
時折≪光弾≫や矢による応戦が入るのが心強い。
おかげで、≪光癒≫で自己回復するのに十分な時間を稼いでもらえる。
一瞬の綻びはまたたく間に修復され、更に強固な結界になった。
さすが兄さん——これで攻撃に全振りできる!
イイ感じに翼の付け根が裂け始めた。
≪光爆≫でその亀裂を致命的なものにすると白竜の身体が傾き、怒りの咆哮を上げる。
——あぁ、このタイミングを待っていた。
大口を開けたその口内を、渾身の≪光弾≫で打ち抜いてやる。
……が、血を吐くに留まり、撃ち抜くことはできなかった。
「ギィッ!!」
片翼が根元から千切れたその身体は、地上へと落下する——が、虹色のシャボンにぶつかると吹っ飛んでいく。
確実に仕留めるために、その先へと走った。
「ギィ! ギィ!」
血塗れで地面をのたうつ白竜。
……こうして間近で見ると、対峙してる時に感じたサイズより、かなり小さい。
——こいつ、身体のサイズを自由に変えられるのか?
逃げ出そうとする首根っこをつまみ上げると、その鋭い牙でもって俺の手に噛みついた。
躾のなってない犬に上下関係を教えるために、噛みつき返したって誰かが言ってたっけ。
ルビーのような赤い目を俺から決して離さず、噛みつき続ける白竜。
≪光癒≫で回復可能とはいえ、大人しく骨まで噛み砕かれるつもりはない。
何より、痛みはちゃんと感じるんだからな!
おもむろに口を開けると、無防備なその白い首に思い切り噛みついてやった。
トドメは物理なのかって? 勝てばいいんだよ。
「キュィイィイィィィイィーー!!!??」
まさか自分が人間に噛みつかれるなんて、思いもしなかったのだろう。
幼い白竜が悲鳴のような鳴き声をあげ、俺の手から牙を引き抜く。
それでも口撃を緩めない俺に降伏を告げるかのように何度も鳴き、やがて大人しく項垂れた。
抵抗がなくなった白竜を解放してやると、小さな身体をますます縮こまらせて足元で震えている。
自分の手は速攻治したけど、敵は治してやんないよ。
片翼からも首からも血を流すその有様に、まるで弱い者いじめをしたかのような罪悪感。
「なんでお前だけ被害者ぶんのさ? お前だって俺たちのこと殺そうとしたろ?」
「キュッ?」
そんなことしたっけ? みたいにつぶらな瞳で小首を傾げる。
こいつ、イイ性格してるな……
まだ幼いドラゴンはなかなか可愛いし、大きくなれば格好いい。
背中に乗れるよう調教すれば、空中戦だって格段に有利になる。
——だけど。
「“ののの”には使い魔のシステム、なかったんだよなぁ……あればよかったのに。……≪光従≫とか、いい線いって——って、えぇ!?」
突然目の前に現れた光の輪が白竜の首にシュルンと嵌まり、小さな身体に吸い込まれて消えた。
「え、えぇ!? ちょ、今の何!? 大丈夫!?」
慌てて足元の白竜を見るためにしゃがみ込む——と。
「キュゥ! キュゥ!」
白竜は嬉しくて堪らないといった風に、俺の手に頭を擦りつけてきた。
……えぇ!? ドラゴンだよ!?
ドラゴンが人間なんかに服従するわけ——あ。
「まさか——≪光従≫?」
「キュイ〜」
甘えるようにすりすりと身体を寄せてくる白竜。
「……いやいや、そんなご都合主義。だ、騙されないんだからね!?」
なんかツンデレみたいになって草。
俺の血で汚れている口元を、人差し指で突いてやる。
無防備な俺の指はあっという間に喰い千切られ——
「キュゥキュウ」
——る、ことはなく。
……なんか舐められ甘噛みされています。はい。
「これ……またやらかした系?」
呆然とする俺をいいことに、白竜は甘えるように俺の腕の中へと這い上がり、ごろごろと喉を鳴らす。
いや、飼い猫かよ!
——まずい。これ多分、最高にまずい。
今までのやらかしは、既成魔法の応用って枠組みの中で収まっていたんだよ、一応は。
今回のこれは……
「新魔法に、なっちゃう……」
初代聖女様から脈々と受け継がれてきた光魔法。
その聖女様の扱わなかった魔法が、今ここに——!
「……あー、いいや。考えんのやーめた」
「キュッ?」
「もーお前さ、ちょっと離れてよ。……あ、そうだ! お前が逃げちゃえばいいんだよ! ほら、≪光癒≫してあげるからさ!」
「キュッ!?」
「はーい、これで元通り! ほーら、飛んでいけー。人間を害さないどっか遠くに、飛んでけーぃ」
「キュイ!? キュイ〜!」
「だーかーら! 人間を襲わなければ自由になっていいんだって! ほら、みんなに見つかる前に早く行きなってば!」
「キュィキュイ!」
「あ、こら! 服の中に入んなってば! こーらー!」
「……何してんだ、お前ら」
「ひっ!?」
「キュッ?」
背後からかかる声に、今日一番で血の気が引いた。
怖くて後ろを振り返れない——!
徐々に人が集まってくる気配がして、傭兵たちの驚愕や感嘆の声が辺りに満ちる。
「あ……兄さん、みんな大した怪我無く済んでよかったね。じゃあ、予定通り果樹園に——」
「どういうことか、説明してもらおうか?」
なんか、白竜が小刻みに震えてるんですけど——!!?
氷結の貴公子、恐るべし。
「ギッ! ギュイッ!!」
「あ、バカ……」
「なんだ、やるのか?」
「キュイン!」
無謀にも牙をむこうとした白竜、兄さんの一睨みで速攻ヘソ天した。
革靴に擦り寄りキュンキュン鳴いてる白竜なんて、見たくなかった……
「はい……よろこんで……」
こちらを見下ろす兄さんの艶やかな笑顔に、心の底から震えるのだった。
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