19. 次男は白竜と戦闘する
「——で、土壌には異常がないってところまでは調査済みって話だったからさ。樹木でも状態異常であれば≪光浄≫が効いたらラッキー、みたいな?」
「みたいな? じゃねぇよ。なんでそんな発想が出てくんのかねぇ、この頭は」
拳で軽く頭を小突かれて、大袈裟に痛がってみせる。
二人並んで城下に降りたら、案の定子供たちに取り囲まれた。
「ソル兄だー!」
「おー久しぶりだなガキ共。相変わらず小せぇなぁ」
「ひどーい! ちゃんと背ぇ伸びたんだよ!」
「マジかよ? あー確かに伸びたか? 髪が」
「もう、違うでしょ!」
「おさげ可愛いじゃん、よく似合ってる」
「……もぅ!」
「遊ぼう! ソル兄遊ぼう!」
「仕事だよ、また今度な」
「えー!」
「全然帰ってこないんだもん、ちっとも遊べないし〜」
「あー煩ぇな、早く終わったらな」
「本当っ!?」
「約束だからね!」
「あ、ルナも一緒に遊んでやるからな」
「うん、ルナも入れてあげるね」
「拗ねちゃうもんね」
「「「ね」」」
……ねぇ、俺の扱い雑じゃない?
あと、拗ねてないから!
「あのねぇ、俺は王都に戻っても兄さんと一緒なんだよ? だからね、この程度で拗ねるほどお子様じゃないんだなぁ」
ま、おチビちゃんたちにはまだ分からないかもしれないですがね!
ちょっと大人気ないけど、ここはちゃんと主張しておかないと……って、アレ?
「……やっぱ拗ねてた」
「ね、拗ねてたね」
「寂しかったんだ」
「ルナもちゃんと入れてやっからさ」
「うん、一緒に遊んでやるからな」
「ふはっ!」
……え? なんで俺、慰められてんの?
兄さんなんてめっちゃ爆笑してるし!
「ちょ! 本当に拗ねてなんか——」
「ドラゴンだ!! ドラゴンが出やがった!!」
「慌てるな!! 落ち着いてシェルターに避難しろ!!」
「北の外れだ!! 戦える奴は行け!!」
俄かに走る緊張感に、兄さんと顔を見合わせる。
「おい、ガキ共。すぐにシェルターに向かえ。いいか、みんな仲良く、だ。焦らなくていい、でもできるだけ早く行け。——いいな?」
「あ、でも……」
動揺する子供たちの中、兄さんは最年長の少年の正面にしゃがみ込んだ。
蒼穹の宝石眼が、少年の瞳を真っすぐに捉える。
「いいか、ジャック。お前が一番兄ちゃんだ。みんなをシェルターに連れて行ってやれ。ここからだと、そこの突き当たりのギルドが一番近い。お前らの脚ならすぐだ。できるな?」
「う、うん——!」
「よし、偉いぞ。期待してる」
「うんっ!」
砂色の髪をくしゃりと撫でながら、不安げな子供たちに視線を走らせる。
「お前ら、ジャックの言うことをしっかり聞け。ジル、ジャックのフォローを頼む。お前がいれば、俺もジャックも心強い」
「っ、うんっ! ——行くよ、ジャック!」
「おぉ! お前たち、大丈夫だからな! ちゃんとオレについてこい!」
ジャックとおさげ髪を揺らしたジルが、力強く頷き合う姿が心強い。
小さくても、みんなしっかり者なんだよ。
「大丈夫、すぐ戻ってきて遊んでやっから」
「うん!」
「ソル兄もルナもがんばってね!!」
「待ってるからな!!」
「早くね!」
「絶対に帰ってきてね!!」
手に手を取り合い駆け出す子供たちの背中を見送り、シェルターへと向かう人々の群れとは逆方向へと走り出す。
予定は変更、これは止む無し。
むしろ、この状況で現地調査の方を優先したら、父さんに失望されちゃうよ。
すれ違う人々の激励を受けながら、脚を止めることなく現場へと急いだ。
「ドラゴンか、珍しいね」
「規模が分かんねぇからな……結界が保つなら問題ねぇ」
「飛行系は総じて厄介だからなぁ」
北の外れの森に近づくにつれ、騒がしくなる。
領地を急襲したというドラゴンの姿も視界に捉えることができた。
ドラゴン種にしては極めて小さい——幼体だ。
空を自由に滑空するその姿は銀白の鱗が陽光を弾き、まばゆく輝いている。
「白竜か……!」
「すごい——本物は初めて見たよ」
ドラゴンの中でも、白竜は希少だ。
その美しさから、伝説の生き物とも称されている。
……領地を襲う以上、ただの魔物なんだけどね。
幸い、結界は正常に機能しているようで領地へ侵入する気配はない。
既に傭兵たちが弓矢を放ち威嚇を繰り返していた。
「若様、ルナ坊! 来てくれたのか!」
「すまん、まさかドラゴンとは……!」
「落とせそうか?」
「それが、かなりすばしっこくて——っ!」
この場にいる大半は加護無し、魔法による戦闘を不得手とする者ばかりだ。
飛行系の魔物との相性は、正直分が悪い。
知性を持たず結界に飛び込んでくるタイプであれば、十中八九落とせるのにな。
「ルナ坊、アレは中級クラス以上だ」
「油断すると死ぬぞ」
「せめて落とせたら……!」
幼体とはいえドラゴン、と言ったところか。
ドラゴンは総じて賢く、故にこのような状況はあまりにも稀だ。
幼体であるにも関わらず単独であることから、恐らくは群れと逸れたのだろう。
「迷い込んだのなら、追い返す。でも、ここをルーチェだと承知の上での急襲であれば——」
翼の付け根に矢を受けた白竜が悲鳴を上げ、ドラゴンブレスを吐く。
——早い。幼体でここまでの戦闘能力を持つのか。
ブレスがぶつかった結界が、シャボン玉のように虹色に揺らめく。
……まずい。このままだと、多分保たない。
「——殺すよ」
紅蓮の炎が爆ぜる様子に、腰を抜かす傭兵の姿が見える。
……ちょっと、これで領民が減ったらどうしてくれんの?
攻撃魔法の片手間に結界を発動させるには、それなりの集中力を要する。
並みの相手であればともかく、相手は魔物の頂点に君臨するドラゴンだ。
「白竜は俺に行かせて。兄さんは援護をお願いします」
正直、今の俺には両立が厳しい。
ここは魔法発動速度に覚えのある俺が白竜を叩き、全体を俯瞰することに秀でた兄さんが援護に徹する方が効率的だ。
俺の言葉に、兄さんはぐっと口角を歪めた。
「“光よ、彼の者に祝福を——≪光祝≫”」
詠唱の終わりに両手を打ち鳴らし、合掌する。
プリズムのハレーションが俺の身体の中へと、消えた。
能力の底上げ。
——最高の餞だ。
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