18. 次男は兄を――
「憧れている人物をあげなさい」と言われたら、迷わず父さんの名を口にする。
聖女の再来と謳われる父さんの魔法の才は、ルーチェの永い歴史においても他にはないレベルだ。
莫大な魔力量と、そこから繰り出される変幻自在な魔法の数々……憧れるなっていう方がおかしいでしょ。
辺境伯爵じゃなければ、誰もが知る魔法師になっていたんだろうな。
——じゃあ、「尊敬する人は?」
◇◇◇
「……あーもう! ムカつく!」
気にするに値しないバカ話だって分かっているのに、無性に兄さんの顔が見たくなった。
勢いだけで執務室の前まで来たものの、重厚なその扉の前で立ち往生してしまう。
室内にいるのは分かっているけれど、そこに出入りできるのは当主と夫人、そして特別に権限を与えられた者——兄さんだけだ。
……ほら、やっぱり兄さんはすごいんだから。
早く出てこいって念が届いたのか、目の前の扉が開く。
中から出てきた待ち望んだ人に、思い切り飛びついた。
「おわっ!? なんだよ、急にどうした?」
「……かまってくれるって言ったのに」
「時間が空いたらって言っただろーが……しょうがねぇな、お前も付き合え」
「うん?」
促されるまま隣に並ぶと、髪をグシャっと一撫でされる。
「果樹園に行く。誰かさんがとんでもねぇ魔法をかけちまった一帯を、視察に行かねぇとな?」
「うぅ……」
「ハハッ! ちゃんと案内しろよ」
まだ成人前なのに、兄さんは既にこうして当主代理を任されることが多い。
俺の兄さんであるソルヴァスが大好きだけど、若様として立ち振る舞うソルヴァスはとにかく格好いいのだ。
「んふふ! お任せください『若様』〜!」
「はぁ? お前、調子に乗ってんなよ」
呆れたような兄さんにくっつくと、デートみたいに腕を絡ませる。
「早く終わったら街の子供たちのところへ顔を出しに行こう。兄さんにも会いたがってたからさ」
「ガキ共の相手なんかしてらんねーっての。……ったく、面倒臭ぇな」
「ふふっ! 絶対に喜ぶよ」
みんな兄さんのこと、大好きだもんね。
……まぁ、俺の兄さんだけど。
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