17. 次男はヒロインを推せない
ヴェルクの勉強時間中、今日は何をしようか屋敷をふらふら探索中。
帰郷のたびに兄さんは父さんと執務に勤しんでいるけれど、俺は自由時間を満喫している。
え、勉強面は大丈夫なのかって?
従者として王都に行くまでにって、一通り修了してるから大丈夫だよ。
最後の方は駆け足だったから、あの時は辛かったなぁ……
勿論、急な魔物の襲来があったりしたら出動するよ。
まぁ、あっても我がルーチェの精鋭たちがちゃちゃっと片づけちゃうから、そんな事態はほぼほぼないんだけどね。
……今の、フラグ?
今日は馬小屋の掃除でも手伝いに行こうかな〜って廊下を歩いていたら、進行方向からピンクの沼の妖精がこちらに向かって歩いてくるのが見える。
今日も今日とて、家庭教師を撒いた模様。
言っておくけど、両親がそれを見逃してるのは、優しさじゃないからね。
成人すれば教養のない娘として嫁に出される、ただそれだけのこと。
それが貴族に生まれた者の勤め。
いくらルーチェが貴族として異質だとしても、そこはね。
だって、領民への示しがつかないでしょう?
嫌であれば、何らかの姿勢を見せる必要があるというのに——カルミアには、何度言っても伝わらなかった。
そうは言っても、学園在学期間中に自力で相手を見つけてくるのなら、話は別だけどね。
事実、学園にはそういった面もある。
家同士の繋がりを深めたり、はたまた新規開拓したり。
下級貴族の子息令嬢なんかにとっては、結婚相手を探す場としても機能しているんだよね。
そう、恋の狩人は、ヒロインのみならずってこと。
顔を合わせても嫌味しか言ってこない相手に、来た道を戻ろうかと真剣に思案してしまう。
「あらお兄様、ごきげんよう」
妙にご機嫌で距離を詰めてくる同じ顔に、嫌な予感しかない。
「……あぁ、おはよ」
「ねぇ、お兄様は当主の座を狙ってるんですか? ソル兄様を蹴落として?」
「は?」
聞き捨てならない言葉に、思わず大きな声が出た。
「何それ、意味分かんない。次の当主は兄さんだ。父さんがそう決めただろ」
ルーチェの次期当主は、当主の指名により決定される。
長い歴史の中では、単純に長子や長男が継いだ代もあれば、兄弟間で一番魔力に優れた者が指名された代もある。
その采配は全て当主に一任され、何人たりともその決定に異を唱えることはできない。
選ばれなかった者は新しい当主に忠誠を誓うか、認められぬのであれば領地を去るか。
徹底して血筋を護ってきたのだ。
今代当主である父さんは、早々に次期当主についての意向を内部に示した。
察するところ、兄弟間の争いを避けたい父さんの想いの現れなのだろう。
父さんの代はその座を巡り、血生臭い争いがあった世代だと記録に残っている。
「あら。そんなこと、最後の最後まで分からないじゃないですか。聞きましたよ? お兄様、また魔法で領民を喜ばせたんですって? そんな芸当、ソルお兄様の魔力量ではできませんものね。そうやって領民の人気を徐々にご自分に集めて」
「……今日はつまらないことを、よく喋るね」
「あら、無自覚でした? でも周りの人間はどう思うのかしらね?」
最悪な気分だ。
それを察したのか、カルミアは誰もが見惚れる最高の笑顔を浮かべる。
「可哀想なソルお兄様。長期休暇の度に戻ってきては、お父様の忠犬のように学ばれて……でも——努力しても埋まらない差、ってあるで——」
「黙れ!!!!」
「まぁ怖い。嫌だわ急に怒鳴るだなんて」
クスクス笑いながら立ち去って行く後ろ姿に、≪光弾≫の一発も入れてやりたいのを、必死で耐える。
こんなヒロイン絶対に推さない、今決めた。
「——クソッ!」
腹が立つ腹が立つ腹が立つ!!
自分は自分のことさえまともにしないくせに、事もあろうに兄さんのことを!
許せなかった。
……悔しいのは、カルミアが口にしたことの一部に、事実が混じっていること。
勿論、他の家門が余所の繊細な問題に口を挟む権利なんてない。
相手がルーチェであれば、尚更。
ルーチェへの介入は王族だって許されないのだから。
それでも、うるさい外野はいるものだ。
どこから聞きつけたのか、俺と兄さんの魔力量の差異をあげつらい、次男を推す派閥なんてものも存在する。
なんて馬鹿馬鹿しい。
父さんは魔力量のみで当主を決めるほど浅はかではないし、外野の口出しで揺らぐほど領民の兄さんへの信頼は薄っぺらくはないのだ。
「……身内がアレってどうなの」
怒りの感情が落ち着き、次に襲ってきたのは途方もない疲労感。
まぁ、ゲーム通りにいけば、ヒロインは学園卒業と同時にどこかしらへ嫁ぐことになる。
ルーチェとの縁もそこまでだと思えば……
「いや、許せないんだけど」
合わない人間、とか、もうそんなレベルじゃなくて。
ヒロイン、無理です。
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