16. 双子の兄は壁ドンされる
顔を真っ赤にしたお嬢さんに平謝りされつつ、異常の見受けられる果樹地帯に移動しては≪光浄≫をして回った。
どの区域もちゃんと復活したよ、よかったー。
……どの区域も5割増になっちゃったんだけどね。
「いずれ、全区域に“きゅあ”してもらうかね?」
「簡単に言うなや。ルナ坊だからタダで施してくださるが、神殿なんかに頼んだ日にゃ……」
「……オラたち、死ぬまでタダ働きだ」
「くわばらくわばら……」
……いや、神殿ぼったくり過ぎでしょ。
聖職者名乗りながら人の弱みにつけ込むようなことしてるから、定期的に暴動起こされるんだよ……
他の果樹にもちゃちゃっとやっちゃうのは簡単なんだけど……ちょこっと問題があるんだよねぇ。
結局、屋敷に帰ったのは空が茜色に染まってからのこと。
大した距離でもないのに馬車で送ってくれたトムじぃたち重鎮一行。
セバスを通して、そのまま執務室へと入って行った。
トムじぃを案内するセバスの、俺を見る目が若干遠かった気もするけど——うん、気のせいだよね。
◇◇◇
夕食までの時間をヴェルクと遊んでいたら、誰かが廊下を走る足音。
うーん、かなりの俊足とお見受けする。
なんか、だんだんこっちに近づいてきてる気がするけど……気のせい?
重厚な扉が豪快に開け放たれる音が室内に響き渡って——って、デジャ・ビュ。
「わぁソルくん、びっくりしたよー」
「そうだよ兄さん。せめてノックし、」
言い終わる間もなく、兄さんに壁ドンされる。
美人の超絶笑顔なのに——怖すぎる。
「おいルナ。きっっっちり説明しろや」
「ルナちゃん、またやらかしちゃったの?」
「あー……アハハ」
ですよね!
やっぱ、問題あるやつでしたよね!
ってか、ヴェルクまでなんか慣れてる?
「笑って誤魔化すな。回復効果5割増しってどういうことだ? あ゙ぁ゙?」
「ごわりましってすごいの? ルナちゃんやったね!」
「あー、やっぱちゃんと報告いったんだね……トムじぃ、仕事出来が過ぎる」
「お前が楽観的過ぎるんだ。いいか、この件は領内機密とする。原因特定まで王都には報告しない」
ですよねー。
神殿が黙ってないだろうし、市場が荒れる未来しか見えませんものね。
「で」
「は、はぃ……」
「——ルナ」
まるでキスでもするのかってくらいの、超至近距離。
逃げ場ゼロの迫力に冷や汗が落ちる。
「……ちゅーだ」
ヴェルクがなんか目ぇキラキラさせて俺たちを見てる。
両手でほっぺ押さえて、めちゃ可愛い。
……って、違うから!
そんな胸キュンもんじゃないから!
「お前、むやみやたらに魔法を試すなって、前にも言ったよな? 今回は未知の事態を領地全域に拡散させる気か?」
「拡散って……そんなつもりは、」
「事実だろ。一本回復した → 一帯が回復した → 回復効果の上昇、しかも5割 → 資源価値爆上がり → 外部に漏れたら商会と神殿が血眼、だ」
「なんか……怖い話? ルナちゃん、大丈夫?」
「……やっぱマズイよね?」
「『ね?』じゃねぇ!」
兄さんがこめかみを押さえた。
うぅ……困らせるつもりなんてなかったのに。
「ルナ、お前に悪気がないのは分かってる。だが、結果的に国家レベルの大事件はやめろ」
「兄さんいつも大袈裟」
「お前はもっと多角的な視点を持て、この魔法バカが!」
「うっ!」
「ソルくん、バカって言ったらめっ!」
壁についていた手が離れ、深いため息。
その手が、俺の髪をぐちゃぐちゃに乱した。
「頼むから。思いつきは、俺か父上の監督下でやってくれ。俺はお前が死にかけた傭兵に≪光癒≫かけて5日間昏睡状態になったアレ、忘れてねぇからな!」
「まだ覚えてるの!?」
「5日間もっ!? 嫌だルナちゃん怖いっ! ソルくんの言う事を聞きなさい!」
「うぅ……」
子供の頃の話を持ち出すのはずるい。
ヴェルクにまで叱られて口籠る俺に、兄さんが小さく笑った。
「……まあ、結果として領地が助かった。礼を言う。しかし——次はない」
「はい……」
殊勝な返事をしたのに。
兄さんの俺を見る目……全く信用してないよね!
「……頼むから大人しくしててくれよ」
「ソルくん、いつもそれ言ってるのにね」
「……本当に申し訳ありませんでした」
こうしてルーチェ領の果樹事件は——
領地トップと一部関係者限定の極秘事項となったのでした。トホホ。
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