02. 俺は美形たちに囲まれる
ルーチェ辺境伯家第二子にして次男、ルナリア。
この春から王都にある王立学園に入学予定の、15歳。
……それが、俺らしい。
ってか、こんな美少女顔なのに男だったとは。
信じられなくて、思わず身体を弄ったよね。
気絶から目覚めても、視界に煎餅布団やひび割れた土壁の天井はなくて。
代わりにいたのは、キラキラな美形たちとセバスチャンさん。
心配そうにベッドの周りを取り囲み、俺を覗き込んでいた。
ちなみに、セバスチャンさんは本当にセバスチャンだった。
何でも、代々ルーチェ家に仕えてくれている由緒正しい家系なんだとか。
セバスチャンさんも、先代の頃から仕えてくれているそうで——
……あれ、セバスチャンさんって、何歳?
みんなが俺を案じてくれていることは、表情や声音から分かった。
心苦しくはあったけど、人生で初めて「ここはどこ? 俺は誰?」って言ったよね。
キラキラさんたちは衝撃を受けた様子で、でも親切丁寧にいろいろと説明してくれた。
みんなを立たせたまま、自分だけ寝たきりなんて申し訳なくて、ベッドから起き上がろうとしたら押し留めてくれる。……優しい人たちだ。
せめて上体を起こし、姿勢を正すと、「そういうところは変わらないんだな」と穏やかに微笑まれた。
「外傷がなく安心していたのに、まさか記憶に影響するとは……」
頭を抱えるダンディーさんは俺の父親にして、現ルーチェ辺境伯様。
スラッと長身で、体格もいい。
切れ長の目は硬質な印象だが、目元が緩むと、驚くほど優しげな印象になる。
金属のような銀色だと思った目は、よく見ると本物の宝石のようにキラキラと輝いていた。
初代聖女の血を引くルーチェの人間にのみ発現する特性なんだとか。
……ん? 聖女に、宝石眼……?
…………なんだろう、なんかモヤる。
しっかし、美形だ。
年齢不詳、シゴデキ感ありまくり。
「……意識を取り戻しただけでも、十分かと」
柳眉を顰めながら俺の頭に手を置く美男子は長男、ソルヴァス。
蒼穹の宝石眼は、見惚れるほどに美しい。
春から王立学園3年生になる、17歳。
春季長期休暇を利用して、王都から馬車で5日の距離のここ、辺境伯領へ帰省している最中なんだとか。
父親に比べると、あまり厚みのない細身。
しかし、その堂々とした佇まいは、次期辺境伯爵の格を感じさせる。
「……確かに、ね」
ベッドに腰をかけた美女が、俺の頭をゆったりと撫でた。
ルーチェ辺境伯夫人、つまり俺の母親。
冷たさを感じさせるほどに美しい顔立ちは、そのままソルヴァスへと受け継がれている。
ベッドに広がる、加工一切なしでシャンプーのCMに出られちゃうくらい綺麗な黒髪。
誘われるように触れると、サラリと指の隙間から逃げてしまう。
「……どうしたの?」
「あ、ごめんなさい。あまりにも綺麗だったから……」
よくよく考えたら、いきなり女性の髪に触れるなんて失礼だった?
恐る恐る見上げた女性は、艶やかに微笑む。
「いいえ、嬉しいわ」
許されたことに安堵する。
不思議と、周囲の空気も和らいだ気がして……結果オーライ?
「ルナちゃん、ぼくのことは分かる?」
俺の太腿に乗り上げたままじっと話を聞いていた、末っ子にして三男のヴェルクロシェット。
まだ5歳、可愛い。
大人たちの不穏な雰囲気を感じ取ったのか、不安げに俺を見上げてくる。
繰り返すけど——可愛い。
「うん、分かるよ。ヴェルク、だろ?」
不安げな表情が、パァっと明るくなる。
「ルナちゃんだーい好き!」
ぎゅぅっと抱き着いてくる、子供体温。
……うん、この子、自分が可愛いって分かってるよね。
あざとい、でも可愛いから許す。
……なんか、キラキラした人が次々出てくるな。
俺、まだ現実に追いつけてないんだけど?
「ルナお兄様、私のことは思い出せませんか……?」
で、最後にこの部屋へ入ってきてから、じっとこちらの様子を伺っていた彼女。
胸の前で祈りの形に手を組み、キャンディピンクの大きな宝石眼を潤ませる美少女。
緩くウェーブする腰より長い銀髪には、一切の縺れがなく、毛先までするん。
纏うドレスは瞳よりも数段薄いピンク色で、レースやリボンがふんだんに使われている。
華奢な身体が庇護欲をそそる。
ザ・正統派美少女、だ。
……なんて言っておいてアレだが。
ぶっちゃけ彼女、俺と性別が違うだけ。
厳密に言えば、性別に伴う体型やら髪型やら服装の違いはあるのだけれども。
ってことは……双子?
「うん、ごめんな」
俺の言葉に、彼女はポロリと一粒、見惚れるような涙をこぼした。
「ルナお兄様の双子の妹、カルミアです」
声質は同じであれど、少女らしい高めで甘ったるい声音。
やっぱり双子だよね。まぁ、見たまんまだけど。
……ん? カルミアとルナリア?
星屑を散りばめたかのような銀髪に、キャンディピンクの宝石眼。男女の双子。
脳裏をチリッと何かが掠める。
……あぁ、まただ。
なんだろう、この思い出せそうで思い出せない気持ち悪さ。
思わず頭に手をやると、そんな俺の様子を見ていたカルミアがキリっと表情を引き締めて辺境伯爵に向き直った。
「お父様。私、ルナお兄様が心配です。こんな状態で、ご無理はさせられません」
祈りを捧げるように組まれた両の手に、潤んだキャンディピンクの瞳。
天 使 が こ こ に い る —— !
「ですから……ルナお兄様に代わって、私が王太子付従者になります!」
——一瞬の静寂——……
「「いや、それは無理だ」」
「そうね、貴女には無理よ」
「ぶふっ!」
意を決したようにキリッと告げるカルミアを、辺境伯夫妻とソルヴァスが被せ気味にぶった切った。
あまりの温度差の不意打ちに、思わず吹き出す。
カルミアに睨まれて、慌てて咳払いで誤魔化した。
「淑女教育さえサボって毎日遊び呆けてるお前が、従者教育に耐えられるわけないだろう」
「はぁ!? アタ、私は——っ!」
「そうだな。カルミアはまず、毎日のショッピングを控えて、家庭教師の先生から淑女教育を真面目に受けるところから始めなさい」
「っ! えと、そ、それは……」
え、何その素行の悪さ。
要は、学校サボって繁華街に入り浸ってるってことだろ?
清楚な見た目しておいてやるなぁ……すっかり騙されたわ。
お人形みたいな美少女フェイスが崩れて、この場を切り抜けようとする普通の女子の顔になってる。
親バレしてないと思っていた悪行がバレた時って、みんな同じ顔すんのな。
「学園入学まで、あと1ヶ月しかないんだ。魔法学は学園で学ぶとしても、貴族令嬢としてのマナーは先に身につけておこうか」
「あの不格好なカーテシーでルーチェを名乗ってくれるなよ。俺は他人の振りをさせてもらうからな」
甘めな父親と、辛口な次期辺境伯爵。
ソルヴァスのダメ押しに、カルミアはぐっと唇を噛み、俯いた。
……って、待って。
なんかさっき、すごい台詞を聞いたような。
「……おーたいし、じゅーしゃ?」
口にしても現実味のない言葉って、あるんだな。
いや、俺の脳が処理を拒否しただけかもしれないんだけど。
え、王太子って、あの王太子?
従者って、あの従者?
とんでもワードにキョドっていると、俺の心境を正しく察してくれたソルヴァスが、欲しい情報をくれる。
「お前、ガキの頃から王太子の従者なんだよ。……いや、ガキの頃は安定者か」
……マジですか。
従者、は、辞書通りであれば意味は分かる。
しかし……あんていしゃ、とは?
簡潔に教えてくれたソルヴァスを見上げれば、彼も俺をじっと見つめていた。
「……確かに、この状態じゃあな。父上、王太子殿下への説明が必要かと。……アレは結構、その……」
……何、その面倒臭そうなうんざり顔。
見れば、辺境伯爵も同じような表情で俺を見ている。
「あの……?」
俺の顔に、何かついてますかね?
「いや、そっちは大丈夫だ。私が上手く説明しておく。…………しつこいんだよなぁ、アレは……」
「……はい」
皺の寄った眉間を揉みながら肩を落とす辺境伯と、やっぱり俺を見るソルヴァス。
「……まぁ、気に入る気持ちも分からなくはありませんが」
「当然だ、私の息子だからな」
急にドヤり出す辺境伯と、頭をわしゃわしゃと撫でるソルヴァス。
俺に抱き着いたままにこにことご機嫌なヴェルクはブレずに可愛い。
ちょっと離れた場所に立つカルミアは……不機嫌そうだけれど。
そして、そんな俺たちを俯瞰するように眺める辺境伯夫人。
なんか俺、結構問題児——だったり?
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