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01. 俺はキラキラの世界で目覚める



 目が覚めたら世界がキラキラしていた。

 いや、比喩じゃなくて、本当に。


 お姫様が眠るような、肌触りのいい布がたっぷりした天蓋付きの豪奢なベッドの中。

 上体を起こし周囲を見渡し……そのまま硬直した。


「どこ、ここ?」


 呟いた妙に掠れた甘い声音に首を傾げるのと、天蓋が開け放たれるのはほぼ同時。


「ひっ!?」

「お目覚めですか、ルナリア坊ちゃまっ!? あぁ——聖女様、感謝いたします! 誰か、誰か早く旦那様を! ルナリア坊ちゃまがお目覚めになられました!」


 突然目の前に現れた、見るからにセバスチャンって風貌のおじいちゃん。

 俺を慈しむような瞳を潤ませ、颯爽と踵を返して部屋を出ていった。


「え? ……ルナリアって、」


 誰のこと?

 思考に耽る間もなく、廊下を走る足音が複数人分近づいてくる。

 重厚な扉が豪快に開け放たれる音が室内に響き渡り、目の前はあっという間にキラキラになった。

 いや、比喩じゃなくて、本当に。2回目。


「お前……っ、いつまでも呑気に寝てんじゃねぇよ!」


 口を開いたのは、艶やかな銀髪を短く整えた美しい顔立ちの青年。

 蒼穹をそのまま閉じ込めたかのような瞳を、盛大に顰めて俺を見下ろしている。

 口調はキツイが、言葉の端々に安堵がみてとれた。


「ルナちゃん起きたぁ!」


 と、ベッドに乗り上げてくるちびっ子。

 彼もまた、美しい銀髪。

 柔らかく癖のあるそれは、天使のような愛らしさだ。

 零れ落ちそうな大きな瞳をにっこりと細めると、そのままぎゅうっと抱き着いてくる。

 あぁやばい、可愛い!

 思わず抱きしめ返して……って、そうじゃない!


「なっ!? えっ!? 俺、は……っ!!?」


 ちょっと待ってくれ!

 俺の人生において、こんな文字通りキラキラ! な美形たちに囲まれたことがあっただろうか? ……いや、無い!


「ルナちゃん、どうしたの?」

「なんだお前、まだどっか痛ぇの、っおい!?」


 訳も分からず跳ね起きベッドから飛び出す。

 が、着ている服が邪魔で裾を踏んで転んでしまい、豪快に床を転がった。


「痛ぁ……」


 何これ、スカート? ワンピース?

 ……って、痛い?

 え、何これ、夢じゃないの?


「ルナリア!? どうした!?」


 開け放たれたままの扉から、銀髪を後ろに撫でつけたダンディーな美丈夫が駆け込んでくる。

 呆然と床に転がったままの俺を見つけると、慌てたように抱き起した。


「何があったの? ソルヴァス、説明をお願いできるかしら」


 凛とした声が室内に響く。

 腰まである艶やかな黒髪に、切れ長のアイスグレーの瞳。

 銀髪だらけの人物の中、そのカラスの濡れ尾羽根は一際目立っている。

 冷たい印象の眼差しは、俺と目が合うとほんのりと和らいだ。

 

 その背後には、先程のセバスチャンさんの姿もある。


「それが、俺にも何がなんだか……もしかして、記憶に混濁が?」

「なんだと!?」


 駆け寄ってくる美青年たちの困惑する声を遠くに聞きながら、俺の方がよっぽど困惑していた。

 俺はスウェット派だし、ベッドなんてワンルームのボロアパートの我が家にはない。

 草臥れた畳とは真逆のふわっふわのカーペットを敷き詰められた足元。

 高い天井にはキラッキラの豪華絢爛なシャンデリア。


「何、これ……ここ、どこ……?」


 ふと、傍らにあるこれまたお高そうなアンティークの大鏡に映る人物が視界に入る。

 肩にかかる程度の艶やかな銀髪に、キャンディピンクの宝石みたいな大きな瞳。

 可愛らしい顔立ちの小柄な美少女が、途方に暮れた表情で床に座り込み項垂れている。

 思わず抱きしめたくなるような哀れさだ。


「……え、嘘?」


 俺が自分の頬に触れると、鏡の中の美少女も自らの頬に手をやる。

 俺が髪を引っ張ると鏡の中の美少女も自分の髪を引っ張り、痛そうに顔を歪める。


「……お、俺…………?」


 嘘だろ、おい。

 うっすらと色づいた唇を動かした鏡の中の美少女が、卒倒する。

 狭窄していく視界の中で、俺を覗き込むキラキラな美形たちの悲鳴が騒がしく踊っていた。




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