13. 双子の兄は魔法がお好き
転生モノだと大体「ステータス」って唱えると、自分のステータスが見られるものじゃない?
あれ、本当だよ。自分でもびっくりした。
いや、勿論今までも普通に見てたんだよ? だってそれが普通だったし。
でも、転生を自覚した頭で改めて見ると……なんかこう、しみじみと感動するよね。
で、肝心の俺のステータス。
光の加護持ち、それに伴う扱える光魔法一覧、……と。
このステータスには見覚えがある。
——プレイ中に散々見た、ヒロインのステータスと一緒。
……俺、思ったんだけど。
ルナリアの公式設定ってつまりさ、『ヒロインと性別が違うだけ』とも言い換えられると思うんだよね。
つまり……俺も、ヒロインチートの恩恵に預かれるってことなんじゃない? って。
それ即ち、レベルカンストしたら、ヒロインが魔王を倒した超大技を、俺も使えるってこと——!!?
——ヤバイ、それ堪んないんですけどっ!!
“ののの”は、プレイヤーの分身であるヒロインのステータスしか見ることが出来ない仕様だった。
ほら、他の乙女ゲームでよく見られる、攻略対象の好感度の数値表示。
あれも存在しない、不親切設計。
つまり、プレイヤーは攻略対象の表情や言動から、自分への好感度を把握する必要があるわけ。
だから……表情筋の死んでる王太子が難しかったんだよ——!
パケ惚れしてから根っからの王太子推しではあったけれど、“ののの”を語るために攻略対象を一通りはプレイした。
四大令息の内、火の担当キャラの分かりやすさには泣けたね……うっかり惚れるかと思ったよ。
後で攻略本を読んで知ったけど、初心者はまず火から攻略するのがオススメなんだって。
運営、情報開示が遅いよ……
「さて、と」
ステータスにある俺のレベルは、既に中堅。
学園入学前にこれなら、かなり優秀だと思う。
必要に駆られて魔法を扱う辺境様々だね。
ちなみに、ゲーム開始時のヒロインのステータスは真っ新。
それを鑑みると、今の俺のステータスはゲーム終盤並みに色づいている。
だけど、“ののの”は魔法面にはそれほど力を入れていないゲームなんだよね。
乙女ゲーだし、そんなもんなのかな?
魔法よりも恋愛、なわけですよね。分かります。
だから、レベルも100でカンスト。
俺的には、果てしなく増え続ける某モンスター収集ゲームよりも好ましかった。
天井が見える分やりがいもあって、きっちりカンストさせていただきましたよ。
勿論、こちらでもカンストさせていただきますとも!
「じゃあ、やりますか!」
屋敷裏の森の中、広場のように開けた一区画。
サッカー少年たちが喜びそうな芝生、ピクニックでもできそうだ。
ここであれば、自由に魔法をぶっ放してオッケー。
あ、危険だから利用者以外は立入禁止にしてあるよ。
って言っても、ここはルーチェの私有地だから、そもそも立ち入れないんだけどね。
周囲を見回して、誰もいないことを確認。
「“光よ、我を遮る全てを撃ち抜け≪光弾≫”」
言うが早いか、一筋のレーザー光が視界の随分先に立っていた樹木を貫いた。
……怖っ!
え、これって森林破壊じゃない? 大丈夫?
慌てて駆け寄ると……あぁ、人間だったら腹に大穴が貫通してる状態。
それなりの年数を重ねてきたことがうかがわれる樹木を、意味もなく傷物にしてしまった罪悪感が……
……あ、そうか!
「“光よ、彼のものを癒せ≪光癒≫”」
傷と見立てた樹木の穴がラメみたいな光に包まれると共に、みるみるうちに塞がっていく。
あっという間に元通りだ。
心なしか、元より生き生きしている気もする。
……気がするだけだけど。
「あーよかった。気をつけないとだね……あ、そうだ。えっと、“光よ、如何なるものより我を護れ≪光域≫”」
ふわっと、俺を中心にドーム状の光が現れる。
もっと大きく、もっと広く、もっともっと——!
満足する大きさまで広がったところで、魔力を安定させる。
ドームの内側から見る世界は、シャボン玉越しの世界のように揺らめき滲み、美しい。
所謂、結界だね。
初代聖女様が王国を守ったとされる技をこんな使い方してるってバレたら、いろいろと台無しだけど。
……それにしても。
「……詠唱って、なんか恥ずかしい〜!」
なんで!? 画面越しに見るキャラクターにはあんなに萌えたのに——!
詠唱シーンだって大好きで、何度も見たのに!
自分で唱えるとなんかこう……そう、厨二っぽいの!
背中がムズムズするの!
思い出す前は何ともなかったのに〜!
「……やっぱ、俺はこっち一択だな」
指先を弾くと、いくつもの光の弾がシャボン玉の壁へと激突して爆ぜた。
「無詠唱でもイケてよかった……」
魔法は基本的に、詠唱からの発動。
『魔法の威力=レベル』だから、『高レベル=強い魔法が発動可能』と言っていい。
しかし、それは単純に、魔法の威力の話。
『高レベルの魔法師=戦闘が強い』とは限らない。
なぜなら、レベルが拮抗している者同士の闘いにおいて大切なのは、魔法の発動速度だからだ。
如何に相手よりも早く魔法を発動させるか……これに尽きる。
威力の強い魔法を発動できるレベルに達していても、実際に発動できなきゃ意味がない。
極端な例えだけど、詠唱を必要とする100レベルの魔法師と無詠唱の70レベルの魔法師であれば、結構いい勝負になると思う。
俺が父さんに勝てないのは、正にこの部分。
いや、父さんの方がレベルが高いんだけどさ……あの人、視線一つで魔法を発動できる、とんでも人間なんだよね。
これ、最早バケモノの域だからね。
俺の手印だって、結構早い方なんだよ?
でも、眼球運動と比べたら——無理ゲーが過ぎる。
いつかあの人から一本取るのが、俺の目標。
ちなみに、詠唱の省略が可能か否かについては、もうレベルはあまり関係ない。
ここはもう、単純にセンスの話。
如何に魔力を自分のものとして飼い慣らしているか。
ただそれだけ。
この世界では、魔力はよく生き物に例えられる。
ゲームみたいに魔法を自由自在に操るためには、まず己に巣食う魔力を飼い慣らし、自在にコントロールするところから始めなければならない。
自分のもつ魔力の量が多ければ多いほど、懐柔に時間を要する。
俺も幼い頃は、それなりに手こずった記憶がある。
しかし、それができない内に魔法を発動すれば、肉体という窮屈な器から解き放たれた魔力に己を食い破られてしまう。
それはつまり、第二の心臓と言われる魔力生成器官の喪失を意味し、結果として魔力そのものを失うことになる。
あ、魔力がなくなるだけなら何も問題ないって思ったでしょ?
それが人体の神秘で、元からあったものを失った人間の身体って、不具合が出てくるものなんだよ。
慢性的に身体が怠いとか、痛いとかね。
魔力枯渇症と呼ばれるそれは不治の病であり、光魔法をもってしても治すことは不可能。
怖いんだよ、本当に。
まぁ、コントロールできなくても魔法さえ使わなければ、何も問題はないんだけどね。
身体の中を流れる血液を意識しないように、魔力の流れだって普段は意識なんてしないし。
実際、魔力のコントロールなんて現実的で地味なこと、ゲームにはなかった。
身体中の魔力の流れを感じながら発動をイメージし、指を弾く。
≪光灯≫
≪光弾≫
≪光盾≫
結界の中はすごいことになってるけど、外は……うん、大丈夫そう!
外から干渉されないってことは、内側から外側への干渉もないかもって思って試してみたんだけど、正解だったね。
あ、もちろん、術者自身が「通す」と意識したものまで遮るわけじゃないよ?
じゃないと、結界越しで戦えないからねw
……まぁ、聖なる結界をこんな使い方するって、まずないか……
…………いや、兵糧攻めに使ったら結構怖いかもw
無心で魔法を放ち続けていたら、いつの間にか太陽は空の高い位置に。
「っと、いけない。夢中になっちゃってた」
いや、無心になりたくて此処に来たんだけどさ。
MPが空になったら街の探索をしようと思ってたのに、全然減らないなぁ。
……というか、減ってもすぐに戻るんだよね。
そうすると無限に放てるというか……
さすがは、ヒロインと瓜二つチートだよね。
「あー……でも、疲れるわ疲れるなぁ」
長時間魔法を使った後って、なんとも言えない怠さが身体を襲う。
身体の節々もビミョーに痛いし……例えるなら、インフルエンザにかかった時みたいな?
一時的なものだから大丈夫だけど、これがずーっと続いたらしんど過ぎる。
魔力枯渇、怖すぎ。
結界を解除し、俺を中心に円状に荒れ果ててしまった大地に≪光癒≫をかける。
地面が抉れ土が露呈していた大地に、何事もなかったかのように草花が再生した。
「さぁ、今日の聖地巡礼はいよいよ領地だ! 行ってみよー!」
気合を入れて、城下町に向けて歩き出す。
……まぁ、ヒロインの領地なんて、ゲームに出てないんだけどネ!
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