第84話 『火種』
――食料暴動発生。
その報告が、議場の空気を切り裂いた。
一瞬の静寂。
そして、次の瞬間にはざわめきが爆発する。
「まだ終わっていないのか!」
「王都が安定したのではなかったのか!」
レオンが低く言う。
「……最後の波だな」
ナディアが笑う。
「いいねぇ、しぶとい」
ミレイアが即座に動く。
「場所は」
兵士が答える。
「外縁区画、第七・第八地区」
フィオナが小さく言う。
「……配給薄区画」
エリシアは目を細める。
優先順位。
守った場所と、そうでない場所。
その歪み。
そして今、それが爆発している。
グレゴールが言う。
「これが結果だ」
低い声。
「不公平が暴動を生む」
ナディアが吐き捨てる。
「放ってたらもっとひどかったろ」
セシルは静かに言う。
「どちらも正しい」
その一言で、空気が止まる。
エリシアは言う。
「行きます」
議場を出る。
誰も止めない。
止められない。
外へ。
通りを駆ける。
叫び声が遠くから聞こえる。
近づくにつれて、それは大きくなる。
「よこせ!」
「俺たちは後回しだ!」
現場。
区画の境界。
縄は切られ、
人が溢れている。
兵士が押し返しているが、
押されている。
完全に。
ナディアが言う。
「間に合わねぇぞ」
レオンが前に出る。
「止めるか」
だがエリシアは言う。
「違います」
その声で、二人が止まる。
ミレイアが言う。
「……止めない?」
エリシアは頷く。
「はい」
そのまま前へ進む。
暴動の中へ。
人々が気づく。
「……誰だ」
「令嬢だ」
ざわめき。
怒りの中に、別の感情が混じる。
エリシアは言った。
「配給を増やします」
その一言。
空気が止まる。
ナディアが小さく笑う。
「来たな」
だがすぐに怒号。
「今さらか!」
「遅い!」
エリシアは続ける。
「優先を変更します」
ミレイアが息を吸う。
「……変える?」
フィオナも見る。
エリシアは言う。
「固定ではありません」
「状況で動かします」
レオンが笑う。
「動的配給か」
ナディアが言う。
「いいねぇ」
エリシアは板を掲げる。
その場で書く。
**再配分**
そして、
今この区画に優先を移す。
理由も書く。
不足。
危険度。
暴動リスク。
すべて。
人々がそれを見る。
読む。
沈黙が広がる。
「……今、ここに来るのか」
「俺たちが先か」
怒りが、
少しだけ緩む。
エリシアは言う。
「順番は変わります」
「全体を守るために」
その言葉。
完全ではない。
だが。
納得が生まれる。
レオンが低く言う。
「……止まったな」
ナディアが笑う。
「ギリギリだがな」
兵士が動き、
穀物が運ばれる。
暴動は、徐々に収まる。
ミレイアが価格板を確認する。
穀物価格――
**安定。**
上がらない。
下がりもしない。
だが、
止まった。
エリシアはその場に立っている。
人々の中に。
怒りの中に。
そして――
静まった空気の中に。
そのとき。
後ろから声。
「見事です」
振り向く。
セシル。
その表情は、これまでと違う。
明確な評価。
エリシアは言う。
「まだです」
セシルは頷く。
「はい」
そして言う。
「ですが」
一拍。
「ここで終わりでしょう」
沈黙。
ナディアが笑う。
「やっとか」
レオンも笑う。
「決着だな」
だが。
セシルは続ける。
「市場は負けていません」
その目が静かに細くなる。
「ただ」
「今回は、引きます」
その言葉。
エリシアは理解する。
勝利ではない。
**均衡。**
セシルは言った。
「令嬢」
「あなたの制度」
少しだけ笑う。
「通用しました」
そして。
「次を楽しみにしています」
黒い馬車がゆっくり去る。
ナディアが言う。
「……逃げたな」
エリシアは首を振る。
「違います」
「終わりです」
ミレイアが板を見る。
価格。
供給。
配給。
すべてが安定している。
フィオナが言う。
「王都、沈静化」
レオンが笑う。
「やったな」
エリシアは空を見る。
静かだ。
ようやく。
だが。
完全ではない。
この戦いは終わった。
だが、
次がある。
王都の戦争は、
一つの決着を迎えた。
ここで王都編、ひとつの決着です。
完全勝利ではなく「均衡」という形。
この作品らしい終わり方になりました。
そして次は――
より大きな戦いへ。
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