第83話 『代価』
――いくらで守りますか。
その問いが、議場の空気を支配していた。
誰も動かない。
誰も声を出さない。
ただ一つの言葉だけが残る。
**代価。**
グレゴールがゆっくりと口を開く。
「市場は損失を受けた」
低い声。
「ならば国家が補填するのは当然だ」
ざわ、と議場が揺れる。
レオンが小さく笑う。
「来たな」
ナディアが吐き捨てる。
「結局それか」
ミレイアが冷静に言う。
「金の話です」
エリシアは答えない。
ただ板を見つめる。
供給。
価格。
安定。
そして――
損失。
セシルが静かに言う。
「市場は合理です」
「損をした者は、次に動かなくなる」
その視線はまっすぐだ。
「つまり」
少しだけ笑う。
「制度は続かない」
ナディアが言う。
「脅しだな」
セシルは首を振る。
「現実です」
グレゴールが言う。
「国家が補填すればよい」
「それで全て解決だ」
ミレイアが小さく言う。
「財政負担が大きすぎます」
フィオナも続ける。
「前例になります」
レオンが笑う。
「一回払ったら終わりだな」
ナディアが言う。
「毎回来るぞ」
沈黙。
議場の視線がエリシアに集まる。
判断を。
エリシアは静かに言った。
「払いません」
一瞬。
空気が止まる。
グレゴールの目が細くなる。
「何だと」
セシルもわずかに動く。
「補填しない?」
エリシアは頷く。
「はい」
その声は静かだ。
だが揺れない。
ざわめきが広がる。
「無責任だ!」
「市場が崩れるぞ!」
ナディアが笑う。
「いいねぇ」
レオンも笑う。
「来たな」
グレゴールが言う。
「ではどうする」
エリシアは板に書く。
**損失**
その下に。
**原因**
ミレイアが目を細める。
「……責任分解」
エリシアは言う。
「今回の損失は」
「投機です」
沈黙。
セシルが言う。
「違います」
エリシアは続ける。
「価格上昇を見越した保有」
「供給停止」
「売り渋り」
一つずつ。
並べる。
「すべて市場の選択です」
ナディアが言う。
「自己責任だな」
レオンが笑う。
「その通り」
グレゴールが言う。
「だが国家が介入した」
エリシアは頷く。
「はい」
「だからこそ」
その目が真っ直ぐになる。
「国家は安定を提供します」
ミレイアが理解する。
「……利益ではなく」
「はい」
エリシアは言う。
「損失は市場」
「安定は国家」
フィオナが小さく頷く。
「役割分離」
セシルは黙る。
その目がわずかに細くなる。
エリシアは続ける。
「補填はしません」
「ですが」
一拍。
「市場は守ります」
沈黙。
議場が静まる。
グレゴールが言う。
「どうやって」
エリシアは板に書く。
**再開**
ミレイアが息を吸う。
「……市場再開」
エリシアは頷く。
「はい」
ナディアが笑う。
「閉じたままじゃ意味ねぇしな」
レオンが言う。
「流すのか」
エリシアは言う。
「制御付きで」
セシルが初めて口を開く。
「……ほう」
その声には、
わずかな興味。
「具体的には」
エリシアは言う。
「価格帯を設定します」
ざわめき。
「上限と下限」
「その中で自由」
ミレイアが言う。
「緩やかな規制」
フィオナが言う。
「市場の維持」
ナディアが笑う。
「完全には潰さねぇのか」
「はい」
エリシアは答える。
「必要だからです」
セシルが少しだけ笑う。
「面白い」
その目が鋭くなる。
「市場を否定せず」
「制御する」
エリシアは頷く。
「はい」
沈黙。
グレゴールが腕を組む。
「……現実的だ」
その言葉。
議場がざわめく。
ナディアが言う。
「通ったな」
レオンも笑う。
「いいねぇ」
だが。
セシルはまだ立っている。
静かに。
そして言った。
「令嬢」
その声は低い。
「それで終わりだと思いますか」
エリシアは答える。
「いいえ」
セシルは微笑む。
「なら」
一歩前に出る。
「次です」
その瞬間。
扉が開く。
兵士が駆け込む。
「報告!」
議場が揺れる。
「王都外縁部――」
一拍。
「食料暴動発生!」
空気が凍る。
ナディアが笑う。
「……終わらねぇな」
レオンが言う。
「次の火種か」
エリシアは前を見る。
終わったはずの戦い。
だが――
まだ続く。
王都の戦争は、
**終わらない。**
ここで「代価」に対するエリシアの答えが出ました。
ただ勝つのではなく、
“どう勝つか”が見えてきた回です。
ですが、まだ終わりではありません。
次は“最後の火種”。
ここで本当の決着に入ります。
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