第82話 『代償』
――次は、政治です。
その言葉が現実になるのに、時間はかからなかった。
穀物価格が下がったその日の午後。
広場の空気は一変していた。
歓声は消え、
代わりにざわめきが広がる。
「呼び出しだ」
「議会が動いた」
レオンが低く言う。
「来たな」
ナディアが笑う。
「やっとかよ」
ミレイアが紙を受け取る。
封蝋付き。
正式文書。
「王国議会、緊急召喚」
フィオナが言う。
「財務長官主導です」
エリシアは頷く。
「行きます」
広場を振り返る。
人々は落ち着いている。
配給は回り、
市場は沈静化した。
だが。
その裏で――
責任が動き始めている。
議会塔。
扉が開く。
中はすでに満席だった。
議員たち。
貴族。
官僚。
そして中央に立つ男。
グレゴール・ラディウス。
「来たか」
低い声。
エリシアは前に出る。
「出頭しました」
ざわめき。
視線が集まる。
賞賛ではない。
**審判。**
グレゴールが言う。
「確認する」
ゆっくりと。
「国家備蓄の無許可使用」
「私有在庫の強制開放」
「市場への直接介入」
一つ一つ。
重く。
「すべて事実か」
エリシアは答える。
「はい」
沈黙。
議場がざわつく。
ナディアが小さく笑う。
「認めたな」
レオンが言う。
「いいねぇ」
ミレイアは静かに見ている。
フィオナは一歩後ろで記録を取る。
グレゴールが言う。
「違法だ」
その一言。
空気が固まる。
だが。
エリシアは言った。
「承知しています」
議場が静まる。
完全に。
グレゴールの目が細くなる。
「ではなぜやった」
その問い。
全員が待つ。
エリシアは答える。
「必要だったからです」
短い。
だが重い。
ミレイアが板を出す。
数字。
供給。
価格。
「実施前」
穀物価格――二倍。
「実施後」
一倍。
ざわめき。
グレゴールが言う。
「結果論だ」
エリシアは首を振る。
「計算です」
レオンが笑う。
「出たな」
ナディアが言う。
「いつものやつ」
エリシアは続ける。
「放置すれば暴動」
「供給崩壊」
「国家機能停止」
沈黙。
グレゴールが言う。
「それでも違法だ」
エリシアは言う。
「はい」
否定しない。
そして続ける。
「だから責任は取ります」
その言葉。
議場が揺れる。
ナディアが小さく言う。
「……覚悟決めてるな」
グレゴールが言う。
「どう取る」
エリシアは答える。
「職務停止でも」
「処分でも」
静かな声。
「受けます」
レオンが横で笑う。
「いいねぇ」
だが。
そのとき。
一人の議員が立ち上がった。
「待て」
ざわめき。
「結果は出ている」
「王都は救われた」
別の声。
「民衆は支持している」
さらに声が上がる。
「処罰は過剰だ」
空気が変わる。
グレゴールがそれを見る。
静かに。
そして言う。
「……なるほど」
少しだけ笑う。
「支持を得たか」
エリシアは答えない。
事実だけがそこにある。
そのとき。
扉が開いた。
ゆっくりと。
一人の男が入ってくる。
黒い外套。
静かな足取り。
セシル・ヴァルトン。
議場がざわつく。
「商人が?」
「なぜここに」
セシルは軽く一礼する。
「参考人として呼ばれました」
グレゴールが頷く。
「意見を」
セシルはエリシアを見る。
そして言う。
「制度は機能しました」
ざわめき。
ナディアが笑う。
「認めたな」
だが。
セシルは続ける。
「ですが」
その声が静かに響く。
「市場は損失を受けた」
ミレイアが言う。
「当然です」
セシルは頷く。
「はい」
そして言う。
「補償が必要です」
空気が一気に変わる。
レオンが低く言う。
「……来たな」
グレゴールが言う。
「国家が払うべきだな」
ナディアが吐き捨てる。
「ふざけんな」
エリシアは理解する。
これが本当の狙い。
市場は負けた。
だが――
**損失を回収する。**
セシルは静かに言った。
「令嬢」
その目は鋭い。
「あなたの制度」
「いくらで守りますか」
沈黙。
議場が固まる。
エリシアは板を見つめる。
勝った。
だが終わっていない。
ここからが――
**本当の決着。**
ここでついに「政治の本番」が始まりました。
市場には勝った。
ですが、今度は“責任”と“代償”の戦いです。
次話、制度は代償を払うのか。
それとも――。
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