第80話 『優先』
――暴動だ。
その言葉が現実になるまで、時間はかからなかった。
区画の一つが崩れる。
縄が引きちぎられ、
人が押し寄せる。
「こっちには来てない!」
「奪え!」
怒号が広がる。
恐怖ではない。
**不満の爆発。**
ナディアが低く言う。
「来たな」
レオンが前に出る。
「押し戻すぞ」
兵士が動く。
だが数が足りない。
ミレイアが言う。
「広がります」
エリシアはその光景を見ていた。
崩れた区画。
流れ込む人。
連鎖する混乱。
そして理解する。
**均等は破綻する。**
「フィオナ」
「はい」
「区画を再編します」
即答。
フィオナが動く。
「優先順位、決定を」
エリシアは言う。
「医療区画」
「兵站区画」
「児童・老人区域」
ミレイアが補足する。
「生存優先」
ナディアが笑う。
「切り捨てるか」
「守るために」
エリシアは答える。
迷いはない。
レオンが言う。
「いい判断だ」
そのとき。
別の区画で怒号。
「なんでこっちが後回しだ!」
「不公平だ!」
怒りが広がる。
だが――
エリシアは振り返らない。
「掲示を」
板を立てる。
大きく書く。
**優先配給**
その下に。
理由。
対象。
基準。
すべて。
ナディアが言う。
「説明するのか」
「はい」
エリシアは頷く。
「理解が必要です」
ミレイアが言う。
「透明化」
フィオナが補足する。
「不満の制御」
人々が板を見る。
読む。
ざわめきが変わる。
「……子供優先か」
「医療が先か」
完全には収まらない。
だが。
方向が生まれる。
レオンが低く言う。
「……止まったな」
暴動が減速する。
押し合いが緩む。
ナディアが笑う。
「効いた」
ミレイアが価格板を見る。
穀物価格――
**横ばい。**
上昇が止まる。
そのとき。
セシルの声が背後から響く。
「見事です」
振り向く。
セシル・ヴァルトン。
その表情は、これまでと少し違っていた。
明確な評価。
エリシアは言う。
「まだです」
セシルは頷く。
「はい」
そして言う。
「ですが」
少しだけ笑う。
「ここまで持たせたのは、初めてです」
ナディアが言う。
「負け認めるか?」
セシルは首を振る。
「まだ終わっていません」
その目が鋭くなる。
「市場は最後に動きます」
ミレイアが小さく言う。
「……最後」
エリシアは理解する。
ここまで来た。
ならば――
残るのは一つ。
**在庫。**
「フィオナ」
「はい」
「商人在庫を把握」
フィオナが即座に動く。
「確認中」
数秒。
そして。
「……あります」
ミレイアが言う。
「まだ残っている」
レオンが笑う。
「つまり」
ナディアが言う。
「最後の弾か」
エリシアは板を見る。
配給。
区画。
優先。
すべてを維持するには――
「開けます」
静かな声。
ミレイアが顔を上げる。
「……強制ですか」
「はい」
エリシアは答える。
「市場の最後を開く」
セシルがわずかに目を細める。
「危険です」
「承知しています」
沈黙。
レオンが笑う。
「いいねぇ」
ナディアが言う。
「全部取りに行くか」
フィオナが言う。
「法的にはギリギリです」
「非常時です」
エリシアは答える。
そのとき。
広場の空気が変わる。
人々がこちらを見る。
期待。
不安。
そして――
判断を待っている。
エリシアは前に出る。
声を上げる。
「商人在庫を開放します」
ざわめき。
セシルが静かに言う。
「……ついに来ましたね」
エリシアは言う。
「終わらせます」
その言葉。
広場に響く。
だがセシルは、
ゆっくりと首を振った。
「終わりではありません」
そして言う。
「ここからが、本番です」
その目が冷たい。
だがどこか楽しそうでもある。
エリシアは板を見つめる。
最後の一手。
それが、
すべてを決める。
王都の戦いは、
**決着の直前まで来ていた。**
ついにクライマックス目前です。
ここでエリシアは「最後の選択」をします。
制度が市場を飲み込むのか、それとも――。
次話、決着。
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