第79話 『内部市場』
――王都の中で戦う。
その言葉の意味は、すぐに現れた。
西門の外は静かになった。
いや、静かすぎる。
荷馬車は来ない。
外からの供給は完全に止まった。
代わりに――
内側が動き出す。
「パン、値上げだ!」
「在庫限りだ!」
商人の声が一斉に広がる。
通りのあちこちで、
同じ言葉が繰り返される。
ミレイアが低く言う。
「……一斉です」
レオンが笑う。
「統制されてるな」
ナディアが舌打ちする。
「市場の中で統一行動か」
エリシアは周囲を見た。
店。
倉庫。
露店。
すべてが同じ動きをしている。
価格を上げ、
供給を絞る。
つまり――
**内部操作。**
フィオナが言う。
「外部輸送が止まった今」
「内部在庫が主戦場です」
エリシアは頷く。
「はい」
そして板を出す。
書く。
**王都内部供給**
商人在庫
国家備蓄
配給区画
ミレイアが言う。
「商人在庫が大半です」
レオンが言う。
「つまり敵の中で戦う」
ナディアが笑う。
「いいねぇ」
そのとき。
通りの一角で騒ぎが起きた。
「売るな!」
「まだ上がる!」
商人同士が揉めている。
ミレイアが言う。
「……価格統制」
フィオナが続ける。
「売り渋り」
ナディアが言う。
「市場の基本だな」
エリシアは静かに言った。
「崩します」
レオンが見る。
「どうやって」
エリシアは板を指す。
配給区画。
「ここを広げます」
ミレイアが息を吸う。
「……全面ですか」
「はい」
エリシアは答える。
局所では足りない。
全体で抑える。
ナディアが笑う。
「国家主導だな」
フィオナが即座に動く。
「区画拡大指示」
兵士が走る。
縄がさらに張られる。
区切りが増える。
通りが分断される。
「何だこれ!」
「通れない!」
ざわめき。
混乱。
だが同時に――
止まる。
人の流れが。
レオンが言う。
「流れを殺したな」
ミレイアが頷く。
「市場干渉成功」
エリシアは言う。
「次です」
板に書く。
**在庫公開**
ナディアが笑う。
「来たな」
フィオナが言う。
「強制ですか」
「はい」
エリシアは頷く。
商人の倉庫。
その扉を開ける。
そのとき。
背後から声。
「無理です」
振り向く。
セシル・ヴァルトン。
いつの間にか立っていた。
「市場は自発です」
「強制は崩壊を招く」
エリシアは答える。
「だから短時間です」
セシルは少しだけ笑う。
「またそれですか」
ナディアが言う。
「効いてるだろ」
セシルは否定しない。
ただ言う。
「ですが」
その目が鋭くなる。
「今回は違う」
ミレイアが言う。
「どう違う」
セシルはゆっくり言った。
「内部です」
その一言。
エリシアは理解する。
外部ではない。
中。
つまり――
「裏切り」
フィオナが小さく言う。
その瞬間。
広場の別の区画で声が上がった。
「配給がない!」
「こっちは来てない!」
ナディアが振り向く。
「……偏ったな」
ミレイアが言う。
「区画配分に差」
レオンが低く言う。
「操作されてる」
セシルは静かに言った。
「市場は分断されると」
少し笑う。
「内部で競争が始まる」
その言葉通り。
区画ごとに、
不満が生まれる。
「こっちは少ない!」
「不公平だ!」
ざわめきが広がる。
恐怖とは違う。
**不満。**
エリシアは板を見る。
配給。
分断。
そして――
競争。
ナディアが言う。
「内部から崩す気か」
セシルは頷く。
「合理的です」
レオンが笑う。
「やるじゃねぇか」
エリシアは静かに言った。
「対処します」
ミレイアが見る。
「どうやって」
エリシアは答える。
「均等ではなく」
「優先順位です」
フィオナが理解する。
「……重要区画優先」
「はい」
ナディアが笑う。
「捨てるか」
エリシアは頷く。
「守るために」
沈黙。
その選択は重い。
だが。
必要だ。
セシルは少しだけ目を細めた。
「いい判断です」
その声には、
初めて明確な評価があった。
だが同時に。
「ですが」
静かな声。
「間に合いますか?」
その瞬間。
遠くで怒号が爆発する。
「暴動だ!」
「押し寄せてきた!」
ナディアが笑う。
「……来たな」
レオンが言う。
「内部崩壊」
エリシアは前を見る。
区画。
人。
不満。
そして――
崩れ始めた秩序。
王都の戦いは、
ついに最終局面へ入る。
ここで戦場が完全に“内部”に移りました。
外ではなく、人の中。
心理と不満の戦いです。
次話、ついにクライマックス。
制度は王都を守れるのか。
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