第77話 『分断』
――全部止める。
その言葉が、頭から離れなかった。
広場はまだざわついている。
一部の輸送は通った。
だが、それだけだ。
「東門、完全停止!」
「北側も遮断!」
報告が飛び交う。
ミレイアが帳面を叩く。
「輸送成功率、三割以下」
レオンが低く言う。
「押し負けてるな」
ナディアが笑う。
「面白くなってきた」
エリシアは板を見つめる。
南部輸送。
北部輸送。
その線の大半に、
**遮断の印。**
フィオナが言う。
「このままでは持ちません」
「はい」
エリシアは頷く。
「分かっています」
そのとき、広場の空気が変わった。
人の流れが揺れる。
「配給、減ったぞ!」
「列が長い!」
ざわめきが一段強くなる。
ミレイアが言う。
「心理が崩れ始めています」
レオンが言う。
「戻るぞ、このままだと」
ナディアが言う。
「パニック第二段階」
エリシアは静かに息を吐いた。
時間がない。
だが焦っても負ける。
そのとき、遠くから声が響いた。
「西門、通過!」
全員が振り向く。
新しい荷馬車の列。
だが数は少ない。
レオンが言う。
「細いな」
ミレイアが頷く。
「一本しか通っていません」
エリシアは板に線を引く。
西門。
唯一の通路。
「集中します」
ナディアが笑う。
「一点突破か」
「はい」
エリシアは答える。
分散は通らない。
ならば集中。
フィオナが言う。
「輸送を西門に集約」
「他は切ります」
レオンが笑う。
「思い切るな」
ミレイアが言う。
「成功率は上がります」
だが。
ナディアが低く言う。
「読まれるぞ」
エリシアは頷く。
「はい」
その通り。
だがそれでも。
「必要です」
そのとき。
黒い馬車が現れた。
セシル・ヴァルトン。
ゆっくりと降りる。
広場を見渡す。
遮断された輸送。
唯一の流れ。
そして――
エリシア。
セシルは少しだけ笑った。
「分かりやすい」
ミレイアが小さく言う。
「……読まれています」
セシルは言う。
「西門ですね」
ナディアが吐き捨てる。
「だったらどうした」
セシルは肩をすくめる。
「止めるだけです」
その言葉で空気が変わる。
レオンが笑う。
「やってみろ」
セシルは一歩前に出る。
「市場は分散で動く」
「ですが」
少しだけ目を細める。
「集中は弱点です」
エリシアは答える。
「承知しています」
沈黙。
セシルはほんの少しだけ驚いた顔をした。
だがすぐに戻る。
「では」
静かな声。
「そこを壊します」
そのとき。
遠くから、激しい音。
怒号。
ぶつかる音。
「西門が!」
「衝突!」
ナディアが笑う。
「来たな」
レオンが言う。
「現場だ」
エリシアは走り出す。
フィオナも。
ミレイアも。
西門。
そこではすでに、
人がぶつかっていた。
荷馬車。
商人。
兵士。
押し合い。
怒鳴り合い。
「通せ!」
「止めろ!」
完全な衝突。
エリシアはその中心に立つ。
「止めてください!」
声が響く。
一瞬だけ、空気が止まる。
その隙。
荷馬車が前に出る。
ぎし、と音を立てて。
突破。
人々が歓声を上げる。
「通った!」
だが次の瞬間。
別の荷馬車が止められる。
再び衝突。
ナディアが言う。
「……消耗戦だな」
ミレイアが言う。
「このままでは持ちません」
レオンが言う。
「数が足りねぇ」
エリシアは板を思い出す。
西門。
唯一の線。
だがそこに集中した結果、
逆に削られている。
そして理解する。
「……違う」
フィオナが見る。
「何が」
エリシアは言う。
「分断されています」
ミレイアが息を吸う。
「……分断?」
「はい」
エリシアは答える。
「輸送を一点に集めさせて」
「そこを削る」
ナディアが笑う。
「罠か」
レオンが言う。
「やられたな」
セシルの言葉が頭に浮かぶ。
分かりやすい。
その意味。
エリシアは前を見る。
西門の混乱。
止まる輸送。
崩れる流れ。
そして理解する。
これは、
**分断戦術。**
セシルの声が背後から聞こえた。
「市場は網です」
振り返る。
セシルが立っている。
「一箇所に集めれば」
静かな声。
「そこを切ればいい」
ナディアが吐き捨てる。
「クソ野郎」
セシルは微笑む。
「合理的です」
エリシアは板を思い浮かべる。
分散。
集中。
どちらも潰された。
つまり――
まだ足りない。
レオンが言う。
「嬢」
エリシアは答える。
「はい」
その目に迷いはない。
「もう一段、上げます」
ミレイアが言う。
「……何を」
エリシアは静かに言った。
「構造を変えます」
セシルがわずかに目を細める。
「ほう」
エリシアは西門を見た。
崩れかけた輸送。
だがまだ動いている。
そして言う。
「分断を、逆に使います」
ナディアが笑う。
「いいねぇ」
レオンが言う。
「来たな」
セシルは少しだけ笑った。
「楽しみです」
その目は冷たい。
だが興味もある。
西門の衝突は続く。
だがその裏で、
新しい戦いが始まろうとしていた。
王都の戦争は、
**次の段階へ進む。**
ここで「分断」という新しい戦術が出てきました。
単純な力勝負ではなく、
完全に“頭脳戦”の領域に入っています。
次話、エリシアの逆転構造。
ここがこの章の大きな山場になります。
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