第74話 『反撃』
翌朝。
王都の空気は、妙に静かだった。
昨日の混乱が嘘のように。
配給所の前には列がある。
だが押し合いはない。
怒号もない。
ただ、人々が順番を待っている。
レオンが周囲を見渡す。
「……落ち着いたな」
ナディアが腕を組む。
「効いたな、配給」
ミレイアが帳面を確認する。
「価格は横ばい」
エリシアはその言葉を聞きながら、違和感を覚えていた。
静かすぎる。
これは――
嵐の前だ。
フィオナが言う。
「初期パニックは完全に抑制」
「はい」
エリシアは頷く。
配給は成功した。
恐怖は止まった。
だが。
それだけだ。
そのとき、遠くから声が上がった。
「来ないぞ!」
別の通り。
「荷が来ない!」
ミレイアが顔を上げる。
「……輸送?」
レオンが言う。
「まさか」
ナディアが舌打ちする。
「やりやがったな」
エリシアはすぐに理解した。
セシル。
昨日の言葉。
“市場は反応する”
その意味。
フィオナが即座に指示を出す。
「輸送状況を確認」
使者が走る。
数分後、戻ってきた。
「西部からの穀物が止まっています!」
ミレイアが言う。
「主要輸送路、封鎖」
レオンが低く言う。
「市場封鎖、第二段階」
ナディアが笑う。
「今度は外からか」
エリシアは板を出す。
書く。
**王都供給構造**
国家備蓄
地方輸送
市場流通
そして一つ線を引く。
地方輸送。
止まった。
フィオナが言う。
「王都単独では持ちません」
「はい」
エリシアは頷く。
配給は応急処置。
本来の供給は地方から来る。
それが止まれば――
再び恐怖が戻る。
そのとき。
広場の空気が変わった。
「配給、減ったぞ」
「量が少ない!」
ざわめきが広がる。
ナディアが低く言う。
「……来るな」
ミレイアが数字を確認する。
「在庫消費が早い」
レオンが言う。
「時間勝負か」
エリシアは言った。
「持ちません」
静かな声。
「このままでは三日」
沈黙。
フィオナがすぐに言う。
「輸送を再開する必要があります」
ナディアが笑う。
「どうやって?」
エリシアは板を見る。
市場輸送は敵。
組合は使えない。
残るのは――
「地方連盟」
レオンが顔を上げる。
「北部か」
「はい」
エリシアは頷く。
北部連盟。
南部連盟。
あの構造。
マリアの顔が浮かぶ。
「直接輸送」
ナディアが言う。
「またそれか」
「はい」
エリシアは言う。
「市場を通さない」
ミレイアが頷く。
「可能です」
フィオナが即答する。
「ただし時間がかかる」
レオンが言う。
「三日以内に間に合うか」
沈黙。
そのとき。
黒い馬車が広場に入ってきた。
セシル・ヴァルトン。
ゆっくりと降りる。
その顔には、余裕があった。
「おはようございます」
静かな声。
ナディアが吐き捨てる。
「てめぇか」
セシルは笑う。
「市場です」
そして広場を見る。
配給の列。
減り始めた穀物。
ざわめき。
「見事な初動でした」
エリシアは言う。
「ですが」
セシルが続ける。
「供給は止まりました」
ミレイアが言う。
「あなたが止めた」
セシルは頷く。
「はい」
あっさりと。
レオンが笑う。
「正直だな」
セシルは肩をすくめる。
「合理的です」
そして言う。
「市場は国家に従いません」
ナディアが言う。
「だから潰すのか」
セシルは微笑む。
「試しているだけです」
エリシアを見て。
「あなたの制度が、どこまで持つか」
沈黙。
エリシアは板を見る。
時間がない。
だが手はある。
「輸送を作ります」
セシルが首を傾げる。
「どうやって」
「連盟です」
その一言。
レオンが笑う。
「来たな」
ミレイアが頷く。
「南部・北部連携」
フィオナが言う。
「可能です」
ナディアが言う。
「間に合うか?」
エリシアは答える。
「間に合わせます」
セシルは少しだけ黙り、
そして笑った。
「いいですね」
その目がわずかに鋭くなる。
「では」
静かな声。
「市場も加速します」
その瞬間。
遠くから声が響いた。
「価格上がったぞ!」
ミレイアが振り向く。
価格板。
穀物価格――
**再上昇。**
ナディアが低く言う。
「……第二波」
レオンが笑う。
「いいねぇ」
エリシアは前を見る。
配給。
輸送。
市場。
すべてが動いている。
そして戦争は、
さらに加速する。
セシルは馬車に乗る前に言った。
「令嬢」
「三日です」
その言葉は冷たい。
「三日で、終わります」
黒い馬車が去っていく。
広場には再びざわめき。
恐怖が戻り始めている。
エリシアは板を見つめた。
三日。
その間に、
制度は証明されるか。
それとも――
崩れるか。
王都の戦いは、
次の段階へ入った。
ここから「市場の本気の反撃」が始まります。
配給だけでは勝てない。
ではどうするのか。
次話は“連盟の逆襲”。
物語が一気に加速します。
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