第70話 『第一戦終結』
北部ヴァルクの朝は、久しぶりに穏やかだった。
市場の広場には人が集まっている。
だが以前のような恐怖のざわめきはない。
商人が値を叫び、
農民が穀物を運び、
子供たちが広場を走る。
普通の市場だ。
広場中央の価格板。
穀物価格――
**基準価格の一・〇倍。**
完全に戻った。
レオンが腕を組む。
「……終わったな」
ミレイアが帳面を閉じる。
「北部暴騰、正式に収束」
ナディアが肩を鳴らす。
「長かったな」
マリアが笑う。
「農民、助かった」
広場のあちこちで、農民たちが安堵している。
穀物袋が運ばれ、
市場はまた日常に戻っていく。
だが倉庫街は違った。
いくつかの商会の扉が閉ざされている。
張り紙。
**破産。**
ミレイアが静かに言う。
「投機清算」
レオンが笑う。
「市場の掃除か」
ナディアが言う。
「派手に崩れたな」
だが大きな商会は生き残っている。
グレイン商会。
セシル・ヴァルトン。
その男は、
広場の端に立っていた。
黒い外套。
銀縁の眼鏡。
静かに市場を見ている。
エリシアが近づく。
「終わりました」
セシルは頷く。
「第一戦は」
レオンが笑う。
「負け認めたな」
セシルは微笑む。
「市場は戦争です」
そして価格板を見る。
「今回はあなたが勝った」
エリシアは答える。
「市場が崩れたからです」
セシルは首を振る。
「違う」
少しだけ笑う。
「制度が恐怖を止めた」
その言葉に、ミレイアが小さく驚いた。
セシルは続ける。
「南部連盟」
「北部連盟」
「国家備蓄」
指を折る。
「三層構造」
ナディアが言う。
「分かってるじゃねぇか」
セシルは肩をすくめる。
「理解しています」
そしてエリシアを見る。
「だから面白い」
沈黙。
レオンが言う。
「まだやる気か」
セシルは笑う。
「市場は終わりません」
そして静かに言った。
「王都には、もっと大きな市場があります」
広場の風が少し強くなる。
エリシアは板を見る。
そこには今、
こう書かれている。
南部連盟
北部連盟
国家制度
ミレイアが新しい線を引く。
その上に。
**王国市場**
ナディアが言う。
「舞台が変わるな」
ローデリックが広場に出てきた。
農民たちを見ながら言う。
「北部は助かった」
エリシアは頷く。
「はい」
ローデリックは腕を組む。
「連盟は続ける」
マリアも頷く。
「農民も」
レオンが笑う。
「制度、根付いたな」
エリシアは広場を見渡す。
農民。
地主。
商人。
そして国家輸送隊。
すべてが混ざっている。
これが市場。
そして制度。
セシルは馬車へ向かう。
最後に振り返る。
「令嬢」
静かな声。
「あなたの制度」
少し笑う。
「王都でも通用するか」
そのまま馬車に乗る。
黒い馬車がゆっくり去っていく。
レオンが言う。
「……次は王都だ」
ミレイアが板を見る。
南部連盟
北部連盟
そしてその上。
国家制度。
さらに上。
王国市場。
エリシアは静かに言った。
「行きます」
北部の戦いは終わった。
だが物語は終わらない。
市場は広い。
そして次の戦場は、
**王都。**
こうして、
北部経済戦争――
**第一戦が終わった。**
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