第66話 『国家備蓄』
北部ヴァルクの広場には、これまでにない光景が広がっていた。
荷馬車の列。
農民輸送隊。
地主輸送隊。
そして――
国家備蓄輸送隊。
王国の紋章を掲げた護衛付き馬車が、ゆっくりと広場へ入ってくる。
人々が道を開けた。
誰も声を出さない。
ただ、その光景を見つめている。
レオンが低く言った。
「……王国だな」
ミレイアが帳面を閉じる。
「国家備蓄第一波」
ナディアが笑う。
「ついに来たか」
巨大な穀物袋が荷馬車から降ろされる。
兵士たちが整然と動き、広場の臨時倉庫へ運び込む。
その様子は、これまでの輸送とは違っていた。
**秩序。**
そして、
**国家の重み。**
広場の人々が価格板を見た。
穀物価格――
**さらに下落。**
ざわ、と空気が揺れる。
マリアが小さく息を吐く。
「止まった」
ミレイアが言う。
「供給三層」
農民。
地主。
国家。
その重なりが、
市場心理を押し返している。
ローデリックが腕を組んで言う。
「これが制度か」
エリシアは頷く。
「はい」
ローデリックはしばらく国家輸送隊を見ていた。
やがて言う。
「南部の令嬢」
「はい」
「面白い」
短い言葉。
だがそれは、
北部最大地主の評価だった。
そのとき、倉庫街の方から馬車が近づいた。
黒い商会馬車。
セシル・ヴァルトン。
ゆっくり降りてくる。
広場の様子を見渡す。
農民輸送。
地主輸送。
国家輸送。
三層物流。
そして価格板。
セシルは少しだけ笑った。
「見事です」
その声は穏やかだった。
だが完全に負けを認めているわけではない。
エリシアが言う。
「市場は速い」
セシルが頷く。
「はい」
「ですが」
エリシアは続ける。
「制度は崩れません」
沈黙。
セシルは広場の国家輸送隊を見る。
兵士。
馬車。
穀物。
そして言った。
「国家は重い」
「遅い」
ナディアが笑う。
「でも来た」
セシルは少しだけ頷いた。
「今回は」
その言葉に、レオンが眉を上げる。
「今回は?」
セシルは肩をすくめる。
「市場は止まりません」
そして倉庫街を指す。
巨大な石倉庫。
商人ギルドの備蓄。
まだ動いていない。
ミレイアが言う。
「公開命令」
セシルが微笑む。
「拒否中です」
ナディアが言う。
「そのうち開く」
セシルは静かに言った。
「開かないかもしれません」
広場の空気がわずかに冷える。
エリシアは板を見る。
農民輸送
地主輸送
国家備蓄
そしてその横。
**市場倉庫**
四割。
まだ大きい。
セシルはエリシアを見る。
「令嬢」
静かな声。
「あなたの制度は強い」
そして少し笑う。
「だが市場は、もっと強い」
ナディアが低く言う。
「また始める気か」
セシルは答えない。
ただ倉庫街を見ている。
その視線の意味を、
エリシアは理解していた。
これは終わりではない。
**第一戦が終わっただけ。**
広場の風が強く吹く。
荷馬車の列。
国家備蓄の穀物。
北部連盟。
制度は確かに動き始めた。
だが市場はまだ残っている。
セシルは最後に言った。
「王都で会いましょう」
それだけ言って、
ゆっくり馬車へ戻った。
レオンが言う。
「……次は王都か」
エリシアは板を見つめた。
南部連盟。
北部連盟。
国家制度。
そしてその先。
**王国市場。**
物語は、
さらに大きな戦場へ向かっていた。
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